4「……ああ。たまに出るんだよ」

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4「……ああ。たまに出るんだよ」

「だからって、何でオレがこいつと!」 「ぼ、ぼくに言われましても」 「こはくくん……ゴースト・ギバーの活動は、二人以上でやることって決まってるでしょう?」  わめく琥珀くん、縮こまるぼく、苦笑してなだめる桃香ちゃん。  あたたかいオレンジが、のんびり教室を照らしている。それも少しずつ影が濃くなって……オレンジがほとんど眠ってしまった、夕暮れ時。  ぼくと桃香ちゃん、そして琥珀くんは、三階の音楽室にいた。茜くんに頼まれた封印探しをやるためだ。もう学校中探したけど、それでも見つからないから、また一から探し直してるんだって。  音楽室はガランとしていた。少し前まで吹奏楽部が使っていたのか、並ぶ机はちょっとバラバラだ。  視線を上げれば、たくさんの肖像画がぼくたちを見下ろしている。うへぇ。かなり不気味だ。 「オレはおまえなんか認めてねーからな」  ふいに。  琥珀くんが、ぼくをギロリとにらんだ。鋭い目つきが、ぼくを串刺しにする。 「ぽっと出のやつなんて信用できないからな。今は茜が言うから、仕方なくいっしょにいてやるけど」  そうブツクサと言う琥珀くんは、なんだか、すごく……。 「……琥珀くん。もしかして、具合悪い?」 「は!? 何だよ急に!」 「ご、ごめん。勘違いならいいんだ。ちょっと顔色が悪い気がして……」 「うるさいな! 関係ないだろ!」  そう怒鳴って、琥珀くんは思いきりぼくから顔をそむけた。  い、居たたまれない。ちょっと気になっただけなのに……。  そんな気まずいぼくたちを心配して、桃香ちゃんがこっそりささやいてくる。 「あのね。こはくくんは、鼻がいいでしょ? だから、悪い幽霊がいっぱいいるとね、臭くて、具合悪くなっちゃうの」 「……そうなの?」 「うん。ももかたちの中でも一番体調に出やすいから……こはくくんも気にしてるみたい」  ちらり。ぼくはもう一度琥珀くんを見てみる。  やっぱり顔色が悪い。青い、を通り越して、白いくらいだ。  もしかして、だからピリピリしてるのかな。いつもいい匂いをさせてるのも、幽霊の臭いをごまかすため、なのかな。  実はけっこう、琥珀くんなりに大変なのかもしれない。  そんな風に考えていると……。  〜♪  急にピアノの音が聞こえた。  ぽん、ぽーん、と最初は軽い音。それがだんだん強く、速く、滑らかになっていく。  ぼくはビクッと固まって……ゆっくりピアノの方に顔を向けた。  そこにぼやけた影がいる。メガネを外せば今度ははっきりと見える。  ――幽霊、だ。 「……ああ。たまに出るんだよ」  固まっているぼくに呆れたように、琥珀くんはサラリと言った。  桃香ちゃんも小さくうなずく。 「でもね、ピアノを弾きたいだけの女の子なの。悪い霊じゃないんだよ。だからももかたちも見守るだけにしてるんだ」 「そ、そうなんだ……」  幽霊にも色々いるんだ。  わかっていたつもりでも、ちょっとドギマギする。  ゴースト・ギバーとやらの活動をしている二人は慣れてるみたいだけど……。  気を取り直してぼくは机や壁を丹念に見ていく。  模様、模様。あるとしたらどんなところにあるんだろう。  封印してるくらいだから、もしかしてこういう壁より、何か箱とかツボとか、そういう入れ物のフタにある……とか?  考え事をしている間にも軽やかなメロディーが続く。  だけど、ふいに。  奇妙に音が外れた。  ピアノの音が強く、激しくなっていく。まるで鍵盤を叩きつけるみたいに。メロディがひどく乱れていく。  怒っているような、叫んでいるような。  そんな強い音の滝に、身がすくむ。 「な、何……⁉︎」 「! 桃香! ピアノから離れろ!」  琥珀くんの鋭い声と同時に。  何枚もの楽譜が桃香ちゃんに向かって飛んできた……! 「きゃあああ!」
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