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その三日後、彼女は退院した。これでまた、元通りの二人になる。
そう思っていたのに。
彼女が引っ越すことになった。
あまりにも突然の別れで、僕はそのときどうすればいいのか分からなかった。
そして、引っ越しの日が来た。
『何年くらい向こうに?』
『うーん、大体十年かな』
『あら、そんなに? ……さみしくなるわねえ』
『まあ、仕事だからね』
『またいつでも遊びにきてちょうだいね』
そんな会話が上の方でしていた。
おばさんが僕に向き直る。
『栄くん、スズと仲良くしてくれてありがとう。これおばさんとスズが作ったの。よかったらもらって」
それは二人で遊んだ公園の模型だった。
どれも本物みたいに上手かった。が、一つだけ、ブランコだけはちょっと形がおかしかった。
『ありがとう』
『ほら、もうしばらく会えないんだから』
おばさんがそう言うと、ずっとおばさんの後ろに隠れていたスズが出てきた。
『スズちゃん、ありがとう。ぼく、これ大切にするよ」
彼女は笑った。いつものような明るい笑顔ではなくて、今にも泣き出しそうな笑顔だった。
『それじゃ、そろそろ』
『……そうね』
おじさんとおばさんが車に乗り始めた。
『スズ、もう乗りなさい』
彼女は車に向かって歩いていった。
と思ったら、振り向いて僕の方にかけより、僕の右頬にキスをしたんだ。
『ありがとう』
それだけ言って彼女は去っていった。僕はしばらく頬を手で擦っていた。
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