供儀

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供儀

「生贄を捧げねばならぬ」  厳かな声で、村長(むらおさ)はそう告げた。 「雨乞いの儀を執り行わねばならぬ」  二つの頭の上に降り注ぐその声は死刑宣告。 「龍神様に処女(おとめ)を捧げねばならぬ」  ほら、思った通り。はぁ、と溜め息を吐き、私は顔を上げた。 「何故処女である必要があるのですか。順当に考えるなら死に近い老人から死ぬべきではありませんか」 「姉様」  双子の妹は私の着物の裾を握り制すが、何の意味をもなさない。 「神に捧げるのは最も価値のあるものでなければならぬと相場が決まっておる。老い先の短い老人など捧げようものなら神の怒りに触れよう。それに、お前たちは巫女の娘だ。お前たちほどの娘なら、龍神様の嫁に相応しかろう」  村長は目を細め、品定めをするような目つきで私たちを見る。ああ、虫唾が走る。 「お母様が健やかに生きていらしたら、身を捧げずとも雨は降ったでしょうね」  そう皮肉を告げると、村長はギロリと私を睨みつけた。  ああ、その目でいい。下卑た視線で見られるよりは、ずっと。怒りに身を焦がしていればいい。 「いいか、三日後だ。三日後の満月の夜、どちらかが身を捧げよ。逃げられると思うなよ。村には見張りを立てて、殺してでも連れ戻すように良い含めてあるからな」  ハハハ、と下卑た笑い声を背にしながら、私は無言で妹の手を引き村長の家を出た。 「姉様、村長様に失礼ではありませんか」  この世の全ての悪性(あくしょう)を凝縮したような私と違い、純然たる善性を持ち素直に育った妹はそう言った。 「あの男が何をしてくれたって言うのよ。父様も母様も、あの男が殺したようなものじゃない」
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