884人が本棚に入れています
本棚に追加
(一)
「今日も日本列島上空には高気圧が張りだしていて、全国的に晴れ。今日も暑くなるでしょう……」
リビングのテレビの声を聞いて、雨晴真佐貴は少し慌てた。ニュースが終わり天気予報が始まると、そろそろ出勤しなくてはいけない時間だからだ。これ以上遅くなると、遅刻してしまう。
真佐貴は席を立つと、ダイニングテーブルの反対側で寝間着姿のままトーストを口に運んでいる妻の雨晴花梨(かりん)に近づいた。
「行ってくるよ」
そう言って彼女の頬にキスをすると、彼女は「行ってらっしゃい」と返事をくれた。
真佐貴はさらに彼女の膨らんだおなかにも「行ってきます」と言って、彼女の寝間着の上をさすった。そしてダイニングを出た。
玄関から出てきた真佐貴はポーチに駐めてある車に乗り込むと、エンジンを始動させた。車に火が入ると同時にカーラジオの電源も入り、足元のスピーカーが声を上げ始めた。
真佐貴は車を進発させた。
(続く)
最初のコメントを投稿しよう!