星屑の川を呑む

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 広場まで行くと、里の者が集まって篝火を囲んでいた。  自身の羽根で作った団扇(うちわ)を手に、輪になって舞っている。(きた)る日に、雨が降らないように(こいねが)うまじないだった。昼間ながら篝火は明るく空を燃やし、打ち鳴らされる太鼓が空気を揺らしていた。  羽衣のおかげで、今年の逢瀬の話が早くも里中に伝わっているようだ。田畑の仕事を中断して里の者たちが集まるさまに、織姫さまの慕われぶりが表れていた。  織姫さまの姿をみとめ、一人の青年が、輪から抜けて駆け寄ってきた。 「おめでとうございます、織姫さま」 「翼衛(よくえい)、まだ決まったわけではありませんが……ありがとう」  翼衛は、織姫さまの前にひざまずいて、快活な笑みを見せた。 「今年も織姫さまを無事に対岸までお連れします。俺にお任せください!」  どん、と胸を叩いて、翠華の方へも笑顔を向ける。 「無様な姿もさらせないしな。しっかりやるから見てな、翠華」 「……ああ」  一応は答えたものの、翠華はまだ心ここにあらずだった。間近に見た織姫さまの瞳の輝きや、手の感触に、心は乱れていた。  逢瀬の夜、里のかささぎたちは織姫さまのために折り重なって飛び、橋を作る。翼衛は今年、その先頭を任されているのだった。  その役には翠華も名乗りを上げていた。逢瀬の手助けをすることで、自分の気持ちを振り切りたかった。  里長や、里の重鎮たちが話し合って、結局は翼衛に決まった。  今は、それでよかったかもしれないと思う。篝火の周り、黒の団扇を振りながら舞い踊る里の者たちを眺めながら、翠華は願ってしまっていた。  雨よ降れ、と。  主人が一年もの間、待ち望んできた逢瀬だ。けれど毎年、織姫さまを見送った後、彦星さまと睦まじく過ごすさまを想像する夜は、胸を力任せに絞られるような辛さだった。いじましくも、そう願わずにはいられなかった。
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