虚実の時

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ここまではすべてが予定通りだった。 砂浜に寝転び、弾んだ息を整えながら、セザールは大きな疲労と同時に満足感を感じていた。 だが、ゆっくり休んでるわけにはいかない。 セザールは起き上がり、対岸目指して小島の森の中を駆け出した。 靴は、森の入口にあらかじめ隠してあった。 綿密な準備の元に、セザールの計画は着々と進んでいく。 (もうヨットのことに気付いた者はいるだろうか?) そんなことを考えると、セザールは酷く気が焦るのを感じた。 小島に人が来ることはほとんどないが、それでも、こんな時に限ってたまたま誰かいるのではないかと不安になりながら、彼はひたすらに駆け続けた。 セザールがようやく安堵出来たのは、小島の対岸にたどり着いた時だった。 小舟に隠しておいた、粗末な服に着替え、普段はかぶることのないキャップを目深にかぶると、セザールは力を込めてオールを漕ぎ出した。 (あ……) 海に出てすぐに、セザールは空から落ちてきた冷たい雨粒に気が付いた。 雨は、次第に強さを増し、あたりの景色も煙るほどの強さとなった。 降りしきる雨の中、セザールはただひたすらに陸地に向かって小舟を漕ぎ続けた。 (もう少し…… もう少しで、夢が叶うんだ……!) そんなひたむきな想いの強さが、疲れているはずのセザールに力を与えてくれた。
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