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いつものことではあったが、今朝は父親の機嫌があまり良くなく、エレナのことはいいかげん諦めろとセザールにきつく進言した。
「セザール……気の毒だとは思うが、おまえがどれほど頑張っても、無理なものは無理なのだ。
確かに、エレナは気立ての良い真面目な娘だが、残念なことにうちとは身分が違いすぎる。
おまえにはまだわからないかもしれないが、身分の違う結婚というのは、結局は不幸な結果になるものだ。」
セザールは何度も飽き飽きするほど聞かされ続けたその話に、何も答えずただ黙々と食事を続けた。
「もちろん、エレナのことは悪いようにはしない。
病気の母親は良い病院に入れてやろう、そこでゆっくり養生すればきっと元気になるはずだ。
エレナや兄弟達の生活の面倒もみる。
家だってもっとましな所に移れば良い。
そうだ…エレナにはそのうち良い伴侶もみつけてやろう。
身分の違わない働き者の良い男をな…その方が彼女も幸せになれる。」
セザールは、まるでそんな話を聞いていないかのように何も言わず、ただただ食事を続けた。
「セザール!なんとか言ったらどうなんだ!?」
しばらくの間を置いて、苛立った声を上げた父親に、セザールは小さな声で呟いた。
「ご馳走様でした。」
それだけ言って、セザールは席を立った。
「セザール!話はまだ終わってはいない!」
「……僕は、彼女のことは絶対に諦めません。
諦めるくらいなら、死んだ方がましだ…」
父親の苛立ちが移ったのか、普段の明るく冗談好きな彼なら絶対に言わないようなことを口走っていた。
テーブルを叩く大きな音にも振り返ることなく、セザールはそのまま食堂を後にした。
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