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敦也曰く、父は数年前に他界したらしい。母は存命だが、滅多なことでは連絡を取らない関係だと。
「多分、挨拶はするべきなのよね。雇われ妻と言っても、そこに関してはきちんとしたほうが印象が良いだろうし」
うん、そうに決まっている。そもそも、挨拶もなく結婚なんて出来ないだろう。
結婚を決めた日。敦也は正史と芽惟の弟に会っている。軽く打ち合わせた出逢いを話し、あとは軽くアドリブを入れた。
正史はまさか芽惟に恋人がいたとは想像もしていなかったらしく、泣きだしてしまう始末。……それを見て芽惟の中の良心が、チクチクと痛んだ。
それを思い出しつつ、芽惟は部屋にある扉を見つける。惹きつけられるようにそちらに近づき……扉を、開ける。
「これ、まさかクローゼット……?」
扉の先にあるのは、小さな部屋。でも、配置されている家具からして、どうやらこれはクローゼットらしい。
「ここがいっぱいになることは、一生ないわね、えぇ」
そう呟いて、芽惟は静かにクローゼットを閉じた。
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