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「……あなたは、本当に仕事熱心だ」
ふと、敦也がそう呟いたのがわかった。……けれど、芽惟からすればそれは間違っている。
芽惟は、仕事熱心というよりは……。
「仕事が、好きだったんです」
ただ、仕事を愛していた。それだけなのだろう。
「小さな頃から、父の働く姿を見ていました。従業員の人たちにもよくしてもらって。私は、あの場所が好きだった」
あの場所が好きで、あの場所を愛していたからこそ。仕事を好きだと堂々と言えて、自分の身を粉にしてでも働こうと思えたのだ。
それは、間違いない。
「でも、私一人の力じゃ、どうにもならないことが多くて。……だから、敦也さんには感謝しているんです」
彼の目をまっすぐに見つめて、芽惟はそう口にする。
「本当に、企業を助けてくださってありがとうございました」
ペコリと頭を下げてそう言うと、彼がコンビニのフォークを置いたのがわかった。それから、誤魔化すようにお茶を口に運ぶ。
「……別に、あなたのためじゃない」
端的に返されたその言葉は、少々素っ気ないかもしれない。だが、これでいい。深入りしない距離が、一番心地いいから。
「俺は、自分の利益になることしかしない。……宗像企業への援助は、利益になると考えたからだ」
「……それでも、構わないのです」
どういう動機であれ、敦也が芽惟を、宗像企業を助けてくれたのは間違いのない真実だ。
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