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そのマグカップを持って、敦也の目の前に腰掛けた。
彼は芽惟に視線を向けてくることはない。それをチャンスだと捉え、芽惟は敦也の顔を観察した。
恐ろしいほどに整った顔立ちだと思う。なんというか、イケメンという言葉だけでは表せないような。
(芸能人でも、通用するんじゃないかな……?)
そう思いつつカフェオレに息を吹きかけて、ある程度冷まして口に運ぶ。
(っていうか、いつもこの状態だったら、本当に調子を崩されるのでは……?)
挙句、そんな心配までしてしまう。
深入りは契約違反だ。わかっている。わかっているからこそ、なにも言わない。ただ、勝手に心配するのは問題ない。
……口に出さなければ、契約違反にはなるまい。
ぼうっとしつつ敦也の観察をしていれば、彼が顔を上げ、芽惟を見つめてきた。
その目には不快という感情は宿っていない。ただ、まるで芽惟のことを『不思議な生物』だと思っているかのようだ。
「なにか?」
「いえ」
声をかけられて、芽惟はゆるゆると首を横に振る。敦也は納得していないようだったが、それ以上問いかけてくることはなく、パソコンを閉じる。次にスマホの一台を操作する。
「今日は帰りが遅くなると思いますので」
「承知いたしました」
どうやら、スケジュールのチェックをしていたらしい。
彼の言葉に頷きつつ、芽惟は立ち上がる。マグカップには、カフェオレがあと半分ほど残っている。
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