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僕はいくら練習しても泳げなかった。クロール、平泳ぎ、バタフライ。全部意味がわからなかった。バタ足で泳いでも、僕の身体はだんだんと沈んでいき、気がつくと水中を彷徨っていた。
クラスのみんなは僕のことを「カナヅチ」と呼び、馬鹿にした。先生も「鶴田くんはなんで泳げないんだろうねえ」と嘆き、「ほら、もっと頑張らないと。大人になって恥ずかしい思いをするぞ」と謎の鼓舞をした。先生は僕が恥ずかしい思いをしていることに気づかないのだろうか。僕は泳ぎながら、いや、もがきながら周りの嘲笑する視線を感じ、体も心も縮こまらせた。
泳げない僕だが、そもそも運動神経自体が悪かった。ドッヂボール、跳び箱、縄跳び、鉄棒、マラソン。何もかもができなかった。周りはスイスイとできることも、僕がやるとすべて失敗に終わった。
「鶴田くん、もっと手に力入れないと」
「鶴田くん、もっと機敏に動かないと」
「何やっているんだよ、鶴田!」
「だせえ、また失敗してやんの!」
「鶴田くんって、めっちゃ運動神経悪いよね」
「鶴田くんカッコわるう(笑)」
それが僕の評価だった。その中でも、水泳は僕にとって最も恥辱を与えるスポーツであり、プライドをへし折るどころか粉々にして排水溝に流されてしまった。それでも先生は「泳げ」と言い、生徒たちは僕を笑い者にするために視線を送り続ける。それに、泳がないでサボってしまえば、僕の成績が最低になってしまう。最低になれば、お母さんもお父さんも怒る。もしかしたらおじいちゃんやおばあちゃんも「ダメな子ねえ」と呆れてしまうかもしれない。
泳がないと、泳がないと。プールの授業がある日、僕は常に「泳ぐ」意識をしていた。それでも身体は言うことを効かず、塩素に犯された水が全身に覆いかぶさる。僕は沈んでいる。このまま何処かへ行ければいいのに。そんな願いを込めて水中を彷徨っていると、先生が僕を救い出し、「大丈夫か?」と気にしてくれるが、また「さあ、泳ごう!」と無茶振りを言う。そんな繰り返しだった。
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