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遅い……いつまで待たせるんだよ。
あまりにも遅いから出されたもの食べてしまったじゃねーか。
まったく、これで弱かったらマジで許さん。
「おまたせ致しましたー!!」
ふわふわ魔物の陽気な声が聞こえた。
その後に続いて黒い長髪をなびかせた男が入ってきた。
ドカッと椅子に座った男。
こいつが魔王か。
赤い目で俺を射抜くように見てくる。
なかなかの威圧感だ。
「魔王様?おーい、魔王様ー?」
ふわふわの呼びかけに反応することなく微動だにしない。
「引き締まった体躯、澄んだエメラルドグリーンの瞳、形のいい唇、日に焼けているのに吸い付きたくなるような滑らかな肌……全部いい、超タイプってとこですか?」
ふわふわがひとり呟く。
魔王はまだ動かない。
なんだ、何かの前触れなのか!?
緊張感が走る。
「これは、落ちましたね」
ふわふわが嬉しそうに声を上げる。
「落ちた?」
「恋に」
「あぁ、落ちた」
「……は?」
「おめでとうございまーす!!
魔王様を落とされた貴方様には生涯の伴侶となって頂き、こちらで一生暮らして頂きまーす!!
よかったですねー、魔王様ー」
「あぁ、よかった
やっと見つけた……俺の嫁」
魔王がはにかんだ。
「早くお世継ぎのお顔を見たいですー」
「おい、気が早いぞ
照れるじゃないか
まずは挙式であろう?」
「待て待て、話を勝手に進めるな
伴侶ってなに!?一生ここで暮らすだと!?
冗談じゃない」
「え……だってチラシに書いてあったし
魔王を落とした人には一生分の生活費を差し上げますって」
「生活費を差し上げるって……
えっ、結婚するってこと!?」
「です、でーす」
「分かるか
男だぞ、俺は?
お世継ぎとやらは産めんぞ?」
「あぁ、大丈夫ですよ?
魔王様と一夜を共にすると子が産める体になりますので」
「共にするか!!
どういうシステムなんだよ
俺は女が好きだからな
女が!!
無理だぞ、諦めろ」
「ふむ、女か
なるほど」
「分かったな?
よし、じゃあ俺は帰る」
「駄目ですよ、逃しません」
ふわふわの目が光った。
俺は慌てて部屋を出た。
くそ、恋に落ちたってなんだよ。
訳が分からん!!
廊下を勢いよく走る。
「お前が兄上の嫁か?」
超かわいい小悪魔女子に呼び止められた。
嫁と言う言葉はスルーする。
女だー!!
「汚らわしい目でわらわを見るな、人間
兄上の嫁じゃなかったらダーリンに痛めつけてもらうのに」
地団駄を踏んで悔しがっている。
なんだ、彼氏持ちかよ。
一気にテンションが下がった。
「マーリン、ここへ来ては行けないと言ったでしょう?」
ふわふわがやってきて小悪魔をたしなめた。
魔王の妹に注意できるんだ。
「ダーリン♡♡」
お前かよ。
「だって、会いたかったんだもん」
「今夜はお仕置きですよ
まったく」
「キャーッ♡」
イチャつき始めやがった。
俺は何を見せられとるんじゃ。
その隙にまた逃げ出す。
走っても走っても出口が見当たらず、ここがどこなのかわからなくなってきた。
ヤバい、迷子になってしまった。
ちょっと泣きそう。
そんな俺の耳に女の美しい声が聞こえてきた。
「どうされましたか?」
女だー!!
まさかまた親族じゃないだろうな?
「道に迷ってしまって
あなたは魔王のご家族?」
「いえいえ、えーっと……働いている
そう、ここで働いている者です」
「そうでしたか
ここから出るにはどうすれば良いですかね?」
「そうですね
夜になってきましたし、明日にされたほうがよろしいかと」
「今すぐにでもここを出たいんです!」
「なぜ?」
「大きい声では言えないんだけど
魔王からね、ちょっと逃げたくて」
「……そうでございましたか
それでは私の部屋で一晩匿って差し上げましょう」
「魔王は来ないですか?」
「大丈夫、来ませんよ
明日の朝出口にご案内致しますわ」
「ありがとうございます」
「こちらですわ」
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