俺のパンティーを盗んだ犯人が「抱いてやろうか」と偉そうに誘ってきます①

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ

俺のパンティーを盗んだ犯人が「抱いてやろうか」と偉そうに誘ってきます①

ae3610a5-d4be-4cc0-ba77-3eafd1ef4bc6 俺の勤める会社はブラックどころでなく、どす黒い。 表むき「我が社がSDGsを推進する優良企業です!」と看板を掲げながら、社内ではハラスメントの嵐。 山ずみの仕事を若手社員に押しつけ、すこしでもミスなんかしようものなら。 スマホをいじって、さぼっていた上司が一時間の説教、というか、言葉の暴力でフルボッコ。 自分が餌食になりたくないからと、若手社員同士、罪のなすりつけあいをしたり、だれかを吊しあげたりのイジメも横行。 そうして日中、むだな時間を費やせば、終業時間まで仕事は終わらず。 手当がでない残業をする羽目になり、〇時を超えるのも休日出勤をするのも当りまえ。 今日も今日とて、上司や同僚に虐げられ、ままならなかった仕事をだだ働きでやっつけて午前三時の帰宅。 限界まで体は疲れはて、心は荒み、床にへたりこんだなら放心。 そんな廃人一歩手前の状態を見たなら、人は「なんで辞めないの?」と首をひねったり「逃げたほうがいいよ」と助言をするだろう。 が、逃げ口はばっちり悪徳会社に封じられている。 「おまえの代わりなんていくらでもいる」と捨て駒あつかいするくせに、辞めることも許してくれない。 もし転職しようものなら、新しい職場に「そいつは、うちの会社で横領した疑惑がある」と吹きこみ、偽装した書類を見せるのだとか。 実際、転職をした先輩は「この前科者め!」と覚えのないことで責められ、二日で首になったという。 曰く「そのあとも妨害工作をされて、実家にもどって店を継ぐ以外の道を断たれてしまった」とのこと。 先輩のように恵まれていない俺にすれば、八方ふさがり。 転職ができないとなれば、死ぬしか逃げる術がないように思えて。 疲労を負うばかりの体はぼろぼろ、精神的にも限界まで追いつめられて、まともな判断ができない状態。 「とても休みなんかとれないけど、死ねば出勤せずに済むな・・・」なんて考えながら、おもむろに部屋を見渡したら、パンティーが視界に。 別れた彼女のだ。 朝に衣装ケースから下着を引っぱりだしたとき床に落ちて放ってあったもの。 別れが急だったから、彼女の私物が置いたままで、仕事が忙しく、処分できないまま。 「どうやって捨てたらいいんだ?」とパンティーに手を伸ばそうとし、ふと思いついてスマホに指をスライド。 レースのついたピンクのパンティーを注文すると、さっきまで自殺願望にとらわれていたのが嘘のように浮き浮き。 鼻歌を吹きながら、彼女のパンティーを紙袋にいれて、生ごみの袋にイン。 まあ、出勤したら地獄に逆もどりだったが、その日は仕事に追われつつ「帰ったら届いているかな」とやや胸を弾ませたもので。 尽きない残業も、いつもより意気まいて、とっとと済ませ、小走りに帰宅。 息を切らしながら、居間に鞄を放って、郵便ポストにはいっていたメール便を開封。 かわいらしいピンクのパンティーを取りだしたなら、背広を羽織ったまま、下半身を裸に。 おそるおそる装着したところ、思ったよりフィットし、ほどよい絞めつけがあって滑らかな生地の感触もいい。 毛が薄いこともあって見た目もわるくなく、ご満悦に眺めたなら、はいたままパジャマに着替えて就寝。 四時間ほどしか寝れなかったものを、目覚めはばっちり。 いつものように「死にたーい」と布団で悶えることなく、朝食代わりの栄養ゼリーを飲み勇んで出勤。 まあ、さすがに家をでたばかりは心もち内股になって、人目を気にしたが、ぶつかった人に舌打ちされたり、満員電車で睨まれたりされて、なんとも愉快痛快に。 ふだんは委縮するか、気を重くするところ「パンティーをはく俺なんかに、むきになって怒るなんて阿保みたい!」と可笑しくてしかたなく。 そのとき脳裏に浮かんだ映像は、ステージのスポットライトを浴びた男二人。 上半身はスーツ、下半身はパンティーだけを身につけた俺に、サラリーマンが顔を真っ赤に怒鳴りつけている。 滑稽なさまに、客は指を差して爆笑を。 その客の顔は全員俺だ。 そのあと会社で上司にしめあげられても「社会人失格だ!」と罵倒されても、スケープゴートにされて、罪をなすりつけられても、なんのその。 頭のなかで同じようなコントが繰りひろげられつづけ、噴きだすのを堪えるのが大変だったほど。 おかげで、かなり気が晴れて、自殺願望もどこへやら。 「俺、今からキャバクラいくから」と上司に大量の書類を押しつけようと、日中のことを思いだし、くすくす漏らしながら残業を乗りこえることができた。 まえより情緒不安定になった気がしないでもないが、弱い自分を責めてばかりいるよりはまし。 面とむかって反抗できい代わりに腹の底で嘲笑して、一方的に攻撃されるのを俺なりに防いだのだと思う。 といって一時しのぎだし、先行きは不安でしかないものの、とりあえず「死にたい」と思いつめることなく、毎日、出勤できていたのだが。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!