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優奈が帰宅すると、母に叱られたが、優奈は素直に謝った。そして、その日の夜、両親が揃うと、また絵画教室のことを話し始めたのだ。 「あかん。前に言うたやろ。学校に行くんやったら習わせてあげる」 「お母さん、私はやっぱり、今の中学校には行きたくない。でも、絵画教室で絵を習って、美術コースがある高校に進学したいねん」 「絵なんかで暮らせる人はわずかや」 「そんなん、知ってる。そやけど、勉強したいねん。絵を描くことだけが、今の救いなんや」 救い、ということばを聞いて、母の心も揺れ動いたようだった。父は、体を前のめりにして、優奈の目を見つめる。 「優奈……。お父さんにもうちょっとその話を教えて」 優奈は、画一的な今の学校にどうしても馴染めないことを必死で両親に訴えた。 「まあ、今のまんま普通の高校に戻っても、勉強はついていけへんしな……」 「そんな言い方ないやろう。それより、こんなに一生懸命な優奈を見たのは初めてやな、それを、お父さんは褒めてやりたいわ」 父のことばに、母は黙る。今まで、家庭で存在感のなかった父が、こんなにも頼もしく感じたのは初めてだった。 「やってみるか、優奈。手続きはどうしたらいいんや」 優奈は、慌てておじさんからもらった絵画教室の案内と、体験レッスンの申し込み書を、両親に渡した。 それから部屋に戻ると、どこからともなくピユが現れた。ピユは、優奈が悲しい時だけでなく、嬉しい時もわかるようだ。 ーーピユ、やったよ! ちゃんと言えたよ! ベッドに潜り込んで、ピユを抱きしめると、雨が降る音がした。 ーー雨よ、降れ! 街の埃も私の心の埃も洗い流して! 雨に洗われた心は、綺麗に輝き始めるのだろうか。すがすがしい気分だった。たとえ、この後、母が心変わりしても、優奈は生きていける気がした。 そして、これからは、雨が降っても、空が晴れても、私は私の道を進んで行きたい。優奈はそう決意して、机の引き出しを開ける。 引き出しの色鉛筆は、雨に洗われた優奈の心のように、色鮮やかに輝いていた。                完
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