雨の音色

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   そんなとき、母から連絡があった。 『一度帰って来ない? お父さん、最近体調があまりよくないのよ』  ニューヨークで暮らす両親に、一体どんな顔で会えばいいのか。飛行機に乗っている最中もずっとそわそわとしていた。  久しぶりに見た父の姿は、痩せこけていて別人のように思えた。 「おお、おかえり」  どんな罵声を浴びせられると思っていたのに、第一声がそんな優しい言葉だったから、私は思わずその場で泣き崩れた。 「辛かったなぁ。しんどかっただろ。ここでゆっくり休んでいけばいい。お前の家なんだから」  父は柔和な顔で私を見ていた。勝手に勘違いをしていただけだったんだ。お父さんもお母さんも、私のことを心配していた。ずっと遠くから見守っていてくれた。  どうしてそんなことに気がつかなかったのか。ボロボロと涙を流す私に、母はハンカチを差し出した。そして、温かいミルクティーを淹れてくれた。  帰ってきてよかった。心からそう思えた。
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