ジョルジュとカウントダウン

2/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ***  意外にも、開発までに時間がかかることはなかった。というのも、必要なデータはそれまでに全て取り揃えていたからである。  もとより現在の世界は、多くの作業をAIを搭載したロボットたちに委ねている。彼らより少し上等な知能を持ち、地球環境改善を最優先で考える思考をするAI――その名も“ジョルジュ”。彼の大枠が完成するまで、一年もあれば充分だったのだ。 「ご機嫌よう、ジョルジュ」  スーパーコンピュータの巨大スクリーンの中。ジョルジュと名付けられた電子頭脳は、人間の子供の姿で出現した。  金色の髪に蒼い目、ピカピカの蒼いジャケットを着た小学生くらいの男の子。とても愛らしい姿をした彼は、私が呼びかければいつでも返事をしてくれるのだった。 『ご機嫌よう、ミセス・オットマン!ごめんなさい、いつもより0.02秒反応が遅れてしまいました。博士から貰った新しい資料を呼んでいたものですから』  今の技術は本当にすごい。  話しかければ、人間の子供としか思えぬ声ですらすらと返事をしてくれるのだから。AIに心はないというが、たまに“本当に?”と開発者の私でさえ疑ってしまう。それほどまでに画面の向こうにいる子供はくるくると表情を変え、愛嬌たっぷりの会話をしてくれるものだから。 「気にしなくていいわ、ジョルジュ。貴方の仕事は、この世界をより良くしていくことですもの」 『地球の環境を改善すること、ですよね。今、裏でいろんな計算を走らせています。まずは、地球環境がこのようなことになったいくつかの原因をはっきりさせる必要がある……僕はそう判断しました』 「原因?戦争とか環境汚染とかでしょ?」 『その通りなのですが、特に悪化を進めた要因がいくつか散見されます。それらを行った国には、ある程度過ちの認識を持ち、反省し、責任をもって挽回して貰わなければなりません。でなければ例え一時的に環境を改善させても、いずれ同じことを繰り返すことでしょう。それでは、地球を救うことになりません』  言っていることは、実に尤もである。  そして、ジョルジュが言う“大きな要因”のいくつかは、私にも心当たりがあった。  例えば、マルチタル王国。高度経済成長期を迎えた新興国は、他の先進国に追いつくためにとバンバン工場を建てて汚染水を垂れ流した。大気汚染も深刻となり、その煙が隣国にまで流れ出して深刻な健康被害を齎している。  長らく話し合いで解決しようとしてきたが、マルチタル王国は一向に聞く耳を持たなかった。大気汚染も水質汚染も、自分達だけの責任ではないの一点張りである。遠い目で見た地球環境よりも、国の発展が滞ることの方が遥かに大切と言わんばかりだ。  こういう国があったからこそ、今まで環境問題がちっとも解決してこられなかったと言える。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!