ジョルジュとカウントダウン

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「マルチタル王国とか、そのへんのことを言っているのよね。でも、彼らのことはいくら説得してもどうにもならなかったのよ?」  はぁ、と私はため息をついた。  環境汚染を改善するため、全世界でAI に協力すること。そのように新生世界連合に加盟しているすべての国で意見を一致させたはずである。しかし、だからといっていきなり“お前の国の工場を止めろ”と言われて納得できる国ではあるまい。  AIがすべての責任を担ってくれる分、連合も命令を出しやすくなったとはいえ――一体どうやって強制力を持たせるつもりなのか。 『ただの説得では通じるはずもありません。かの国が、自国の裕福層のことのみ考えて動いていることは明らかだからです』  故に必要なのはアメとムチなのです、とジョルジュは断言した。 『工場に、煙や汚染に配慮した最新の機械をいくつも導入いたしましょう。そのかわり半数の工場を強制的に停止させます。僕の力ならばそれが可能です。オットマン博士に言われた通り、株で稼いでたくさん僕自身が使える資金を用意してありますから、経済面でかの国に負担をかける心配はありません』 「きょ、強制的にって」 『言う通りにしないと工場を壊しますよと言えばいいのです。大丈夫です、責任はすべて僕が負うのですから』 「……」  少しのメリットという飴。そして、むりやりにでも工場を解体するぞという鞭。  ジョルジュの行動は正しかった。彼がマルチタル王国に指示を出し、従わなかった者達に制裁を下せば――マルチタル王国の人間たちはあっさりと降伏してきたからである。なんせ、AIに慈悲なんてものはない。やると言えば確実にやる。国王の前で工場をダイナマイトでバラバラにしてやれば、一瞬にして彼も立場を悟るしかなかったということらしい。  無論、国王は国際連合に対して激しく抗議をしてきた。兵器を使って報復するぞとも最初は宣言した。だが、国際連合の方も“AIが勝手にやったことだ”の一点張りである(実際その通りなのだが)。そして、国王が何かをしようとするたび、ジョルジュに察知されて兵器が壊されたり城が破壊されたりするわけだ。  そりゃ、鞭に怯えているより飴に喜んでいるほうが賢い選択だ、と気づきもするだろう。それが実質、恐怖政治に過ぎないとしてもだ。 『ジョルジュの決断力は凄まじい。何より、他国がなんの責任も負わなくていいというのがありがたい。みんながあの国の身勝手さには困っていたからな』 『そうだな。しかし、少々危険ではないのか?ジョルジュは、人の心を無視して、地球環境のための制裁を加えると証明されたのだぞ』 『そうだな。しかし、それくらいしなければ……この世界を救うことなどきっとできないだろう。我々はもう、彼に頼るしか術などないのだから』
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