からすのカァ子

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 秋が来て、冬が来て、春が来て、夏が過ぎ…季節は巡っていきました。  カァ子がいなくなって、三度目の春の事です。 「クァ、クァ、クァ」  聞き覚えのある少しだけ甲高い、甘えるようなカラスの鳴き声に、清子さんはハッとしました。  急いで庭に向かいます。  玄関の扉を開けて見回すと、庭の桜の木のてっぺん近くの枝にカラスが二羽、とまっていました。  二羽の内の一羽が、清子さんの姿を見て、物干し竿まで舞い降りて来ました。  三年間、一度も忘れたことがない、欠けた羽のカラスでした。 「カァ子、カァ子ね。会いに来てくれたの?元気にしていた?」  清子さんがカァ子に話しかけると、桜の枝にとまったままのカラスが突然大きく鳴きました。 「アァー、アァー」  その声を聞くと、カァ子は羽ばたいて、鳴いたカラスがいる桜の枝へ向かって飛んでいきました。  寄り添って枝にとまっている二羽を見て、清子さんは、分かりました。 「カァ子、あなた、家族を見せに来てくれたのね。あなたのご主人さまなのね」  「クァクァ」  「カカカカ」  二羽のカラスはそんな鳴き方をして、お互い、くちばし同士を擦っています。  仲睦まじい様子のカァ子たちを見て、清子さんは嬉しくなりました。 「カァ子を大事にしてくださいね」  清子さんはカァ子のご主人に挨拶します。  清子さんの言葉を聞いて、二羽のカラスが枝から羽ばたきました。  羽ばたいていく、後ろ姿に清子さんは大きな声で呼びかけました。 「カァ子、ご主人連れてきてくれてありがとーう。 また、おいでねー」 二羽のカラスは、カァ、カァと鳴きながら林を超えて飛んでいきました。 春の柔らかい日差しを受けて、飛んでいく二羽の翼が烏羽色に輝いていています。 よろしく、またね。 清子さんは胸の内でそっと呟きました。
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