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「お疲れさまでーすっ。お先に失礼いたします」
「お疲れさま、廣瀬さん。また明日もよろしくね」
廣瀬るりが職場を後にしたのは、夕方五時をまわった頃。職場がスーパーな故に、退勤したその直後に買い物を済ませることができるので、彼女はこの職場を大変気に入っている。
「あ、やっば。もしかしたら牛乳、家になかったかも」
そうひとりごちて、横断歩道で踵を返するり。しかし記憶が曖昧だったため、高校生の息子に電話をかけることにした。
「もしもし一路?お母さん今から帰るんだけどさ、冷蔵庫にまだ牛乳って──」
「おいちょっとコラ実!俺のこと地方に飛ばしてんじゃねえよ!」
まだ牛乳ってある?
るりがそう聞けなかったのは、スマホの向こう側から聞こえてきた賑わいのせい。
「わ、わっ!ちょっと待て待てお前等まじで最低だなっ!瞬人に悪魔つけられたわ!」
ギャハハと一路以外の声がするということは、彼は友人たちといるということ。そしておそらく、ゲーム中。大盛り上がりの中悪いなと思ったるりだったが、牛乳の有無は絶対に知りたいので、聞く。
「ちょっと一路、聞いてんの?冷蔵庫にまだ牛乳ってある?」
すると「俺のコントローラーに触んないで待ってろよ!」と怒鳴った一路が、その賑わいから遠ざかる。冷蔵庫の開ける音と共に「あるよ」と言われ、るりは「よかった」と踵の向きを戻した。
「お母さんもうすぐ家着いちゃうけど、お友達、いつまでいるの?」
「え、母ちゃん気まずい?帰らした方がいい?」
「べつに気まずくはないけど。ほら、うちって狭いからさ、お母さんいたらみんなに迷惑かなーって思って」
「ははっ。そんなん気にする奴等、俺の友達にいねえよ。それに母ちゃんに会わせたい奴も、今日は来てるし」
「会わせたいやつ?」
誰、と聞くるりに、「帰ってからのお楽しみ」と返す一路。そのまま「じゃあね」と電話を切られた彼女は、ぽかんと空を見上げた。
「一路の友達でわたしに会わせたい子……ってまさか、女の子!?」
入学早々もう彼女できたの!?と驚いたるりは、家路を急いだ。
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