#34 本当によかったね

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「母ちゃん、そろそろ自分で歩け」 「……むりぃ」 「おいまじで歩けって。フった店長にこんなことさせて、悪いと思わねえのかよ」 「思うぅ……」 「じゃあ歩け」 「……むりぃ」  酔っ払いと共に電車に乗って、ようやく着いた自宅最寄り駅。降車した途端、ホームのベンチでダウンしたるりをどうしたもんかと一路が悩んでいると、仕事を終えた門脇と偶然鉢合わせた。舞が寄越した手土産を両手にたくさん抱える一路を見た彼は、「僕が背負うよ」と手伝いを申し出てくれた。  夏の星空を見上げながら、門脇は背中のるりを愛おしく思う。いつの間にやらこんなにも彼女に惹かれていたのかと、またもや思い知らされた。 「『フった店長』って、なんかその言い方は嫌だな一路くん」  ははっと笑いを交えてそう言うと、一路がぺこりと頭を下げた。 「すんません」 「そんな丁寧に謝られるのも、なんか嫌だな」 「あ、まじっすか。じゃあ、さーせん」 「はははっ」  リーンリーンと、鈴虫の鳴き声が辺りを包む。るりから交際をきっぱりとお断りされた日を思い出せば、門脇の胸はちくりと疼いた。
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