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「ちょ、ちょっと瞬人くん、近いっ」
触れるか触れないか、そんなんじゃなくて、ぴたりと密着した身体に驚き、るりは咄嗟に背を反らす。
「近いの、だめですか……?」
「だ、だめじゃないけどっ」
「嫌ですか……?」
「い、嫌じゃないけどっ」
だったらなんで避けたのよ、と心の中の自分にツッコまれたところで、るりは抗う術を失くす。間近に見える瞬人の顔が近付いてきて、キスをされるのかと思ったけれど、彼は「あの」と言葉を発した。
「俺の目、ちゃんと見えますよね?」
「う、うん。見えるよ?」
「よかった。俺もるりさんの目、しっかり見えます」
ずっとずっと、こうしてるりと向き合って、きちんと話したかった瞬人。まずはこれを伝えて、次にあれを伝えてと、今日まで何度も考えてきた台詞たちはたった今、胸がいっぱいになり召されて消えた。
「るりさん、好きです……」
息を吸って吐くように、るりを見れば愛が溢れる。
「好きです、本気で好きです大好きです。るりさんからしてみれば俺なんかガキンチョで、身も委ねられない頼りない存在だとはわかっています。けどまじで俺、どうしてもるりさんのことが諦めきれないんです。忘れようとしたって無理だった。離れようとしたって離れられなかった。門脇店長みたいな大人の男性の方がるりさんにはいいってそう思おうとしたけど、そんなもんただの嫉妬に変わるだけだったっ」
一生懸命で真っ直ぐな、その想い。るりの心にじーんと染みる。
「るりさんっ……」
きらきらと、その時何かが光った気がしたのは、瞬人の瞳のせいだった。
「もし、もしまだるりさんの気持ちが俺にあるなら、俺を選んでみてほしいっ……」
涙を堪える彼を目に、るりもなんだか泣きたくなる。
「俺を選んだこと、るりさんに後悔させないように俺頑張るからっ。ううん、絶対に後悔させない、必ずるりさんを幸せにしてみせる。いつの日かイチローにも認めてもらえるような、立派な人間になる。だから、だからるりさんっ……」
下瞼のすぐそこまで上がってきていたものを先に零したのは、感動したるりの方だった。
「俺と、付き合ってくださいっ……!」
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