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十八才も年下の高校生だから、わたしは瞬人くんを好きになっちゃいけないのっ。だからもう、瞬人くんもわたしのことは諦めて。
キスの後にそう言って、瞬人を傷付けた日のことは、るりの心にまだ残っている。
「本当は両思いだって知った瞬間に、瞬人くんの胸へ飛び込んじゃいたかったっ。手だって繋いでキスだってして、瞬人くんの側にいたかったのに、わたしにはその勇気がなかったのっ」
世間体と未来。そのふたつが邪魔をして、るりはずっと躊躇していた。人を好きになるという素敵な気持ちに蓋をしてまで、違う明日を歩もうとしていた。だけどもう、それもおしまい。何故なら彼女は気付けたから。人は今しか生きることができないと。瞬人が意識を失って、回復の見込みが立たなかった時、るりはどうしようもなく後悔したのだ。
「ばかだよね……」
愛の言葉は、互いが生きているうちにしか伝えられないのに。
「もしあのまま瞬人くんが目ぇ覚さなかったら、わたしは一生この嘘を訂正できなかったっ。本当は諦めてほしいだなんて思ってないって。本当は、ずっと好きでいてほしいってっ。だって、だってわたしも──」
そこで一度、るりは息を吸って呼吸を整える。彼女の言葉ひとつひとつを聞き逃さまいと、瞬人は耳を澄ましていた。
「だってわたしも、瞬人くんのことが本気で好きだから……」
その瞬間、ぽろっと瞬人の瞳から落ちた雫が、るりには宝石のように見えた。
「瞬人くんが好き、好き好き大好きっ。瞬人くんは自分をガキンチョだって言うけど、それはわたしがおばさんだからで。だから瞬人くんには、年齢の近い若い子の方がいいって何度も思ったけど、でもそれはやっぱり嫌でっ。これからもわたしは毎年一個ずつ年齢重ねてくし、確実に皺も増えていくし、衰えていく一方だけど、でも、それでも瞬人くんがそんなわたしを好きでいてくれるなら、むしろこっちからお願いします付き合ってくださいなのっ!」
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