#35 なにもたもたしてんだよ

6/6
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/273ページ
「よーやくきたっ!」  るりが一路へ恋愛成就のメッセージを送信したのは、カラオケ店を出てからだった。キスに夢中になってしまったが故に、報告は遅くなってしまった。  よかったな瞬人、そして母ちゃん……  感慨に浸りながら、彼は二件目のメッセージを受信する。 『瞬人くんが送ってくれるって言うから、一緒に帰るね。瞬人くんが早く、自分の口から一路に報告したいって』  そのメッセージを読み終えて、一路は実をちらりと見やる。一路と目が合った実は、気持ち悪いと思った。 「なんだよその顔、気持ちわりい……」 「は?」 「笑ってるのに泣くってなに。どういう感情……?」  その言葉で、一路は自分が涙していることに気付く。険しかった道のりの末に得たハッピーエンドを噛み締めた。 「よし!今日は祝宴だ実!飾りつけすっぞ!確か小学生の頃使ってた折り紙が、まだ余ってたはず!」 「はあ〜!?飾りつけ!?一体なんのお祝いだよっ」 「決まってんだろ!ビッグカップル誕生のお祝いだよ!」 「はぁ〜!?」  誰と誰、と聞く実には、詳しく話さずお預けにする一路。部屋の装飾を渋々手伝わされた実が驚愕することになるのは、それから三十分ほどが経った後。 「ただいまー……あ、実くん来てたんだ」  リビングの扉が(ひら)かれるやいなやあんぐり()いた実の口。それは瞬人とるりの手が仲良く繋がれていたから。そしてお似合いだと即座に思った自分にも、同時に驚いた。 「おかえり母ちゃん、瞬人」  即席で施した部屋の装飾。折り紙の花をバックに、一路はふたりを出迎えた。まず、嬉しそうにはにかむるりと視線を交わして微笑んで、そしてゆっくり瞬人を見やる。こほんと喉を整えて、瞬人は言う。 「イチロー。俺、るりさんと付き合うことになったよ」  穏やかだけど、どこか緊張しているようにも見える瞬人。そんな彼に伝えたいことはたくさんある一路だけれど、ひとまずは、一番贈りたい言葉を口にした。 「おめでとう、ふたりとも。母ちゃんのこと幸せにしてやってくれよな、瞬人」  その時の一路の笑顔が、るりは今までの人生の中で一番、幸せそうに見えた。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!