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「よーやくきたっ!」
るりが一路へ恋愛成就のメッセージを送信したのは、カラオケ店を出てからだった。キスに夢中になってしまったが故に、報告は遅くなってしまった。
よかったな瞬人、そして母ちゃん……
感慨に浸りながら、彼は二件目のメッセージを受信する。
『瞬人くんが送ってくれるって言うから、一緒に帰るね。瞬人くんが早く、自分の口から一路に報告したいって』
そのメッセージを読み終えて、一路は実をちらりと見やる。一路と目が合った実は、気持ち悪いと思った。
「なんだよその顔、気持ちわりい……」
「は?」
「笑ってるのに泣くってなに。どういう感情……?」
その言葉で、一路は自分が涙していることに気付く。険しかった道のりの末に得たハッピーエンドを噛み締めた。
「よし!今日は祝宴だ実!飾りつけすっぞ!確か小学生の頃使ってた折り紙が、まだ余ってたはず!」
「はあ〜!?飾りつけ!?一体なんのお祝いだよっ」
「決まってんだろ!ビッグカップル誕生のお祝いだよ!」
「はぁ〜!?」
誰と誰、と聞く実には、詳しく話さずお預けにする一路。部屋の装飾を渋々手伝わされた実が驚愕することになるのは、それから三十分ほどが経った後。
「ただいまー……あ、実くん来てたんだ」
リビングの扉が開かれるやいなやあんぐり開いた実の口。それは瞬人とるりの手が仲良く繋がれていたから。そしてお似合いだと即座に思った自分にも、同時に驚いた。
「おかえり母ちゃん、瞬人」
即席で施した部屋の装飾。折り紙の花をバックに、一路はふたりを出迎えた。まず、嬉しそうにはにかむるりと視線を交わして微笑んで、そしてゆっくり瞬人を見やる。こほんと喉を整えて、瞬人は言う。
「イチロー。俺、るりさんと付き合うことになったよ」
穏やかだけど、どこか緊張しているようにも見える瞬人。そんな彼に伝えたいことはたくさんある一路だけれど、ひとまずは、一番贈りたい言葉を口にした。
「おめでとう、ふたりとも。母ちゃんのこと幸せにしてやってくれよな、瞬人」
その時の一路の笑顔が、るりは今までの人生の中で一番、幸せそうに見えた。
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