雨恋 amagoi

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「本日の降水確率は0%。首都圏全体に乾燥注意報が出ています」  冬の太平洋側は晴れの日が多い。空気はカラカラ。静電気パチパチ。  …雨、降らないなぁ… 「最近よく天気予報見てるわよね。学校で何かあるの?」  朝食のトーストを渡してくれながら母が訊いてくる。 「あ、ううん。何でもないよ。パリパリだなーって思っただけ」 「そうねぇ。洗濯物が乾くのはいいんだけどねー。お肌カサカサよー」  やぁねーって笑ってる母に、うんうん、て頷きながらトーストにいちごジャムを塗った。  恋人と相合傘がしたいけど、雨が降らない  春、高校に入学したばっかりの頃、帰りまでギリ大丈夫だろうと傘を持たずに学校に行ったら見事に降られて、彼に相合傘で駅まで送ってもらった。  秋には、仲良くなった彼に相合傘してほしくて、わざと傘を持って行かなかった。  傘は結界だ。  ただ並んで歩くのとは違う。  他の人は入って来られない、2人だけの空間。  せっかく恋人同士になって、傘を持ってても相合傘をねだれるのに、肝心の雨が降らない。  クリスマスに粉雪が降ったっきりだもんなぁ  その雪も、彼の家を出る頃にはほぼ止んでいた。  放課後は、ほとんど毎日体育館に彼の部活を見に行ってる。  最後まで見て、そして一緒に帰る。  バスケをしてる格好いい彼を全部見たい。1秒でも長く一緒にいたい。  できれば休みの日の部活も見に来たいって思ってる。 「お待たせ」  部活終わり、昇降口で待っていたら今日も彼が急ぎ足で来てくれた。  うれしい 「帰ろうか、っと…っ」  そう言って、いつものように彼が肩を抱こうと伸ばしてくれた手と肩の間でバチッと静電気が光った。 「ごめんごめん。だいじょぶか?痛かった?」  心配気な顔をして、彼が覗き込んでくる。  …すっごい格好いい 「ううん、だいじょぶ。…雨、降らないもんね」 「だなー。カラカラだもんな」  改めて肩をぎゅっと抱いてくれた彼の腰に腕を回して、しっかりとコートを握った。 「…降って、ほしいなー…、雨」 「ん?」  ちらっと彼を上目に見て、カサつく唇をぺろりと舐めた。 「…相合傘、したい、から…」  彼がくすっと笑う。 「クリスマスにも言ってたな、それ」  そう言ってまた、ぎゅうっと肩を抱いてくれた。  うん、と頷くと彼も、うんうんと頷く。 「…相合傘は特別、だもんな」 「うん…」  ゆっくり歩いていた彼が、普段曲がらない道を曲がった。そして建物の陰に押し込まれる。 「てるてる坊主、逆さに吊るすか?」  ふふっと笑った彼が、頬にキスしてくれた。 「お母さんに、何やってんの?って言われちゃう…」 「あー…、そうだなぁ。じゃあやっぱ待つしかないな。…でも」  ちゅって軽く、唇にキス。 「春が近付けば降るよ。春が過ぎれば梅雨。夏は台風も来るし」 「台風は傘、差せないかも」 「だな。お前が飛んでかないように抱きしめとかないと」  軽いキスを繰り返しながらくすくす笑う彼が、唇をつけたまま喋る。 「ずっと一緒にいるんだから、何度でもするよ、相合傘。お前がもう飽きたって言うまで」 「…言わないもん…、そんなこと…」  彼を上目に睨んだら、薄暗がりの中、アーモンド型の目が嬉しそうに笑った。 「可愛いなぁ、ほんと。このままうちに連れて帰りたい、マジで」  ぎゅうっと抱きしめ合って、深い口付けを交わす。  乾いていた唇がしっとりと濡れて、身体が熱を持ってくる。  戻れなくなるギリギリのラインで唇を離して、潤んだ視界で見つめ合った。 「…俺、自分が雨を楽しみに思う日が来るとは思ってなかった」 「うん…」 「降るといいな、早く」 「うん」  低く甘い彼の声。この声を傘の中で聞きたい。 「…梅雨も、好きになれそう」  ジメジメして嫌な季節だと思ってたけど。 「だな。俺も好きになる、きっと」  そう言って優しく微笑んだ彼が、額にキスしてくれた。 「雨降んの面倒くせぇ、って思ってたのになぁ…」  彼がくすくすと笑う振動を、抱きしめられた腕の中で感じている。 「お前を好きになったら、好きなものが増えてすっげぇ幸せ…」  耳元でそんな風に囁かれたら、こっちこそめちゃくちゃ幸せで、もう頷くことしかできない。  だいすき 「…雨、降るといいな」  もう一度、優しい声で彼がそう呟いた。  その呟きに「うん」って応えて、  そして、  彼を抱きしめながら、幸せだなぁって思った。  了
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