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いつもの朝
――ジリリリリ! ジリリリリ!
けたたましいベルの音に、うっすらとまぶたを開く。
ベッドの近くには三つの置き時計があって、そのうち二つはこんなにも大きな音を立てなかった。
つまり、最後の砦でもある三つ目の時計が、派手に鳴り響いているのだ。
出っ張ったボタンを止めて、急いでベッドから降りた私は、壁に貼ってあった時間割を確認する。
月曜日、と書かれた一番上の欄には"朝の読書活動"と大きな文字で記されていた。
「大変! 今日朝読だった!」
私は慌てて、学習机の隅に並んだ数冊の本のうち、適当な一冊を取り出してランドセルに突っ込んだ。
こんなことなら、昨日ママとでかけたときに、何か買ってもらえばよかった。
おもちゃや漫画だったら渋られるかもしれないけど、朝読で使う本ならきっと買ってもらえたのに。
私は半泣きのまま急いで着替えて、一階に降りた。
朝ごはんにラップがかけてあるけど、いちいちレンジで温めたりする時間はなさそうだ。
私は焼いてもいない真っ白な食パンを一枚かじって、ジャムくらいつけたら良かったな、と思いながら冷めたコーンスープを一気に飲み干した。
ママは今、駅前にあるビジネスホテルで働いている。
朝食バイキングでのホールスタッフは、この時間帯がとくに忙しいらしい。
基本的には私が寝ているときに家を出て、昼前に帰ってくる。
ちなみにパパは、北九州で単身赴任中だ。
前に会ったのは、まだ桜も蕾だった3月の終わり頃。
三人でファミレスに行って、パスタの上にハンバーグが載ったプレートをつつきながら進級祝いをしてもらった。
寂しくないといえば嘘になるけど、私もいよいよ小学五年生。
高学年の仲間入りなのだから、少しは大人っぽいところも見せていかなくちゃ。
「じゃあ、いってきます!」
身支度を整えて靴を履くと、私は誰もいない廊下に一声かけて家を出る。
もちろん、鍵を掛けるのを忘れないように。
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