いつもの朝

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「はぁ、はぁ」  息が上がる。  全速力で、長い長い坂道を駆け上がっているからだ。  小学校は、なんと坂の一番上に建っていた。 「もー! せめて坂の下だったらよかったのに」  そうすれば帰りはちょっと大変だけど、朝はゆっくり起きることができる。  私は葉っぱだけになった桜並木の道をぜえぜえ言いながら突き進んだ。  途中からは、同じ高さと模様の石塀が続く。 「さすがに……今日はもう、行っちゃったかな」  私は途中から速度を緩め、そんなことを呟いた。 「あっ!」 「おはよう、(はるか)ちゃん」 「お、おはよう! (しずく)くん」  間に合った! と私は嬉しくなり、再び駆け足で坂道を登って、声をかけてくれた男の子に近づいていく。  装飾された細長い門の前に立っていたのは、この広い石塀のお屋敷に住む乙原雫くんだ。  今は、私が通う坂の上の公立小学校ではなく、少し離れた私立の小学校にバスで通っている。  風が吹いて、雫くんの少しだけ長い前髪がかすかに揺れた。  切れ長な瞳が見え隠れするたびに、心臓がどきどきと騒ぐ。  彼は今日も、ううん。いつだってかっこいい。  でも、私が雫くんを推している理由はそれだけじゃない。  とっても、とーっても優しいからだ。  年はひとつ上の六年生だけど、この場所で私を見かけるたびにかならず「おはよう」と声をかけてくれる。  たったの一年間、同じ幼稚園に通っていただけだというのに、未だに素っ気なくならず関わり続けてくれることが嬉しかった。 「次のバスに乗るの?」 「うん。遥ちゃんは、なんだか急いでるね」 「朝読で早いんだぁ」  それなのに、走らなければ間に合わないギリギリの時間に起きてしまう私って……と自分に呆れる。 「じゃあ、またね」  雫くんが手を振って、私を見送ってくれる。  先週の金曜日もそうしてくれたけど、私は真新しい気持ちで感動し、喜んでいた。
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