2人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
「まーたニヤついてるー!」
校門の前で落ち合ったのは、同じクラスのあきぽんだ。
おはようの前にこんなことを言ってくるのは、別に意地悪だからではない。
私たちが気の置けない関係だからだ。
ちょっと照れくさいけれど、親友と言ってもいいかもしれない。
あきぽんは、一昨日の土曜日に買ったばかりだというふわふわのチュールスカートを翻し、早くしないと遅れちゃうよ、と言って私の手を引いた。
あきぽんと私は、二年生のときに同じクラスになってからは一度も離れたことがない。
来年のことはわからないけれど、また一緒になれたらなぁとぼんやり思う。
私はちょっと人見知りがあって、初対面だったりするとなかなか打ち解けることができない。
だから今のクラスでも、まだ馴染めていない人がたくさんいた。
「それにしても……顔に出やすいね、遥は」
「え?」
「今日も会ったんでしょ? "大好きな"雫くんに」
「あー……うん。でも、大好きなっていうのとはちょっと違うかな。もっと憧れっていうか、心から応援したいっていうか」
そう、やっぱり"推し"という言葉がぴったりなのだ。
「アイドルを間近で見てるような気分なんだぁ」
「ふうん。まぁいいけど」
あきぽんは編み込みまじりのツインテールを揺らしながら、くすりと笑ってみせた。
今日も抜群に可愛い。
「そういえば、朝読の本、何持ってきた?」
「あー……なんか、テキトーなやつ」
正直に言えば、急いでいてタイトルすらも見ていなかった。
「遥、読書嫌いだもんね」
「漢字が苦手なだけで……別に嫌いってわけじゃ……」
私は、ごにょごにょと言いよどむ。
特に、雫くんが読書好きだとわかってからは、できるだけ本に触れたいと思っていた。
まあ、思っているだけでなかなか実行には移せていないのだけど。
「来年からは朝読から朝学になるらしいよ」
「なにそれ」
「朝、自主学習するんだって」
「えー!」
最悪、と言いながらも昇降口についた私は、上履きにつま先を突っ込んでトントンとやると、あきぽんと一緒に五年二組の教室へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!