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 4月、わたしは高校三年に進級した。附属の大学に内部進学する生徒の多いこの学校では、高三といえどもどこかのんびりとした空気が漂っている。  クラス編成は二年次からそのまま持ち上がり、担任も変わらず数学の高崎先生だ。 「今年度もよろしくなー」  先生は雑な挨拶一つで新年度を始め、これからの予定を淡々と伝達する。 まるで春休み前と地続きのような変わり映えのなさに、わたしはあくびを口の中でかみ殺した。  自慢ではないがわたしの友達は少ない。中高一貫校で、その下の初等部から持ち上がってくる生徒も多いこの学校では、かなり早い段階で人間関係は固定してしまう。打ち解ける努力をとうの昔に放棄したわたしに用もなく話しかける生徒はまれで、それが苦にもならないのだから、今後状況が変わる見込みはほとんどない。  そんなわたしが友人と呼べそうな貴重な一人が皆井佳奈美だ。同じクラスになったのは高校2年の時が初めてだったが、そのまま持ち上がりで、出席番号も一番違いのクラスメートを続けている。 「香子、今年もまた図書委員やるの?」 「うん」 「何年連続よ?今年はとうとう委員長なんじゃない?」 「そう、委員長を頼まれてる。というか、委員長にするから今年も図書委員になれって指名が来た」 「何それ?ドラフト会議?」  けらけらと佳奈美が笑う。佳奈美は芸能人のように華やかな美人で、現在は休止中だが、実際に子役として芸能活動をしていた時期があるらしい。コミュニケーション能力にも長けていて、クラスの誰とでも気軽に話す。明らかに人間のタイプが違うわたしと一緒にいると周囲は違和感を覚えるようで、「仲いいんだ…?」と中途半端な疑問符つきで尋ねられたことも一度や二度ではない。けれど、かつて清濁入り混じった大人の世界を泳いだ経験のあるこの友人は、笑顔の下にわたしと同じく少なからぬ毒と屈託を抱えていて、それを共通点にわたしたちの友人関係は続いている。 「川本先生が産休に入ったから、四月から来た新しい先生が司書を担当するんだって。来てすぐだといろいろ細かいことが分からないだろうから、委員長としてサポートしてほしいって言われた」 「はー?そんなの生徒の仕事じゃないじゃん。都合よすぎ」 「まあね」  佳奈美の言うことをもっともだと思いながらも、わたしは断ることを選択しない。優等生は教師の頼みを無碍に拒絶などしないのだ。  この学校で優等生であり続けることはわたしの必然であったから、図書委員長を引き受けることはすでに決定事項だった。それをわかっている佳奈美もそれ以上の言及はしない。 「そんなわけで、今日はこれから図書室に行ってくる」 「ふーん、じゃあ私帰るね、香子行ってら!」  ひらひらと手を振って佳奈美は教室を出て行った。
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