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 学校に着き、3限目が終わる頃にはいよいよ片頭痛が悪化して、わたしはお釈迦様の輪に頭を締め上げられる孫悟空よろしく歯を食いしばって痛みをこらえていた。頭痛薬の効果など、もうまるで感じられない。   (今日は「当たり」だ)  どうにもこうにも薬の効かない日がある。「当たり」を引いたら、取れる対処方法は限られていた。4限が始まる前に佳奈美に「ちょっと保健室行ってくる。」と声をかけ、極力頭を揺らさないようゆっくりと歩く。保健室の引き戸をノックして開くと、机に向かって書きものをしていた養護教諭が私のほうを見た。 「頭が痛くて…少し横になってもいいですか?」 「あまり顔色がよくないわね。どこのクラス?」 「3年2組の松宮です。」  わたしは保健室の常連と言って差し支えないが、この春交替したばかりのこの養護教諭にお世話になるのは初めてだった。 「熱はない?」 「ありません。頭痛だけです」  養護教諭に示された奥のベッドに横たわり、目を閉じた瞬間にすっと意識が落ちる。1時間にも満たない時間だったが、泥のように眠った。  わたしの片頭痛が起きるトリガーはもうわかっている。寝不足だ。だから睡眠時間を補填すると症状はかなり軽快する。問題は、その補填が目下保健室でしかできないことだ。  わたしは自分の家でうまく眠ることができない。    昼休みに差し掛かる頃、わたしは保健室のベッドから起き上がった。上履きを履き、養護の先生にお礼を言う。 「そろそろ教室に戻ります」 「……松宮さん」養護の先生が、改まった口調でわたしを引き止める。「今、去年の記録を確認していたところなんだけど、あなた、ずいぶん頻繁に保健室に来ているのね」  確かに去年は、多い時には毎週のように保健室に来ていた。前の養護教諭はゆるい保健室休憩に目くじらを立てない人だったから、他にも何人かそういう生徒はいるようだった。
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