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「だからさあ、あの人って数学がめちゃくちゃできたのが発端でさ。文系志望なのに、何回も数学のテスト満点取ったりしておかしいじゃん?って。高センはクラスも担任だったんだけど、個人面談もやたら多かったりしたし。実はあの二人は出来てて、高センはテスト前に問題を見せてるんじゃないかって疑惑があったらしいよ」  そこで葉山は急に声を潜め、「あの人、うちの学校の理事長の親戚なんでしょ?だからそういうのも見て見ぬふりされてるんじゃないかって」と囁いた。「はあ?」と思わず絵は眉をしかめるが、葉山は返事を待たずに話を続ける。 「でもさ、その噂が出たあとテストが急に難しくなって、あの人も満点は取らなくなったりして、いったんその話は立ち消えたんだけどさ、高三のとき、今度はあの人数学のテスト白紙で出したんだって!」 「白紙!?」 「そう、白紙。すごくない?成績落ちたら大学推薦だって影響出るのに。テストのちょっと前に何かもめてたって目撃証言もあって、テストの白紙も痴話喧嘩の延長じゃないかってそれもすごい噂になったみたい」 「……おまえ、そういうのって、どこからネタ仕入れるの?」  四年も前のことにもかかわらず、見てきたかのように生き生きと語る葉山の様子に鼻白んで絵が突っ込む。 「どこって…お姉ちゃん」きょとんとして葉山が返事をする。葉山の姉は同じ学校で、香子と同じ四学年上に在籍していた。絵も見かけたことがある。葉山の姉は小柄かつガーリッシュな雰囲気の生徒で、背が高くてスポーティな葉山妹とはあまり似ていなかったが、ゴシップ好きは姉妹の共通項であるらしい。 「あの人が今、高センと一緒になんかやってるって聞いて、あのときの噂ってホントだったんだーって見に行っちゃった」 「お前、ミーハーもほどほどにしとけよ…」 「えー、だってお姉ちゃんからも指令があったし」 「お前の姉ちゃんって、松宮センパイと仲でも悪かったの?」  自分でもそうとわかるほど、冷え冷えとした声で絵は言った。 「え?」 「すげー悪意に満ちた話になってない?憶測ばっかのわりに」 「だって、本当にそういう噂だったし」 「葉山は昔からミーハーだけど、そんな風に人を悪く言うやつじゃなかったじゃん。だからお前の姉ちゃんがそうなのかなって思っただけ。…なんか胸が悪いし、戻るわ」 「なに怒ってんの?」 「別に怒ってない」 「ええ~?」 嘘だ。葉山にではないが、腹が立っている。むかむかする。だが、何に対して?
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