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もうすぐ梅雨が来る。わたしの苦手な雨の季節だ。今日はうららかに晴れているけれど、低気圧が近づいていると今朝の天気予報で言っていた。そのせいか、久しぶりにうっすらと頭痛がしている。
昼休みの精神疲労も影響しているような気がしてならない。人間の体と精神はつながっているのだとこういうとき実感する。
しかもそんな日に限ってカウンター当番だった。本の貸し出しと返却が多く書架とカウンターの行ったり来たりが続き、その流れが切れたときにはもう閉室時間間際になっていた。深見先生から声がかかったのはそんなタイミングだった。
「あ、松宮さん今日当番だったんだっけ。ちょっと今いいですか」
話し方に意識的な「よそ行き」を感じてちょっと可笑しい。
「この間発注した本、7月中旬に一式全部納品できるって連絡がありました」
「あ、よかったですね」
購入リクエストの中には人気のシリーズものがあって、途中の刊は取次に在庫がないかもしれないと言われていたものが、なんとかなったようだ。深見先生が「日本の小説」の書架エリアに移動しながら嬉しそうにそう報告する。
「ただね、今のままの配架だと、ちょっと棚に収まらないかも」
「ああ、あのシリーズ、結構冊数ありましたね」
「ここの書架がもういっぱいなので、下二段分ほど隣の書架に移したほうがいいと思うんだけど、玉突きで大移動になるでしょう」
「こっちはこっちで、今度のリクエスト本を入れるんでしたっけ」
「そう。だから、この中で貸出頻度の低い本を閉架書庫に下げる作業が必要ですね。全体的に棚に余裕を作らないと」
「できればそのとき廃棄もしたいですよね。去年の廃棄本も結局司書室に積みっぱなしになってますし。夏休み前に作業することを次の委員会でアナウンスしましょうか」
打ち合わせしながら書架の一番奥までたどり着くと、深見先生がわたしの顔を覗き込んだ。
「また顔色が悪いですね」
「光の加減じゃないですか」
不意を突かれて心拍数が上がる。声はひそめられているがその分距離を詰めていて、あの部屋と同じ香りがふわりと鼻先をかすめた。
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