1.

5/6
前へ
/201ページ
次へ
  *  しょぼん、とキャプションを付けたいようなしおれた様子に急に我に返る。今の出来事に加えて昼の件もあって思わず苛立ってしまったけれど、どちらも彼に責任を求められるようなことじゃない。これではただの八つ当たりだ。  気を取り直して、なるべく穏やかに聞こえるように切り出す。 「今聞いたことは、誰にも言わないでほしいんだけど」 「寝つきが悪いこと?」 「そのあとの話」  中途半端に話を逸らそうとするところをさっくり切り戻す。ぐっと詰まり上目づかいでこちらを見る様子がやっぱり子犬のようで、思わず苦笑が漏れた。 (ちょっといじめすぎたかな)  わたしが深見先生の家に出入りしていることはさっきの会話で彼にばれてしまっただろうけど、記録に残っているわけではなし、多少噂になったところで「何のことでしょう」としらばっくれてしまえばいい。  かといって言い回られたいわけではもちろんないので、一応口止めはしておきたい。   「その代わり、交換条件で何か一つ、瀬戸崎くんの望みを聞いてあげる」 「望み?」 「そう、なんでも。公序良俗に反しない限り」 「こーじょりょーぞく?」 「社会のルールと良識の範囲内ってこと。テスト問題を盗んで来いなんていうのは論外だし、あとは大金がかかるのも無理かな」 「はあ。…すぐには思いつかない…」 「だよね。ゆっくり検討して」  思った通り素直にうなずく瀬戸崎くんに、多分この子は大丈夫そうだと思う。委員会での様子を見ていても、自分からちょっかいを出すというよりは受け止めて返すのが上手、という印象がある。きっと面白おかしく噂を触れ回ったりはしないだろう。 「あ、一つあった」  いいことを思いついた、とばかりに瀬戸崎くんがきらきらとした目を向ける。 「お二人の関係を教えてください、っていうのは?」 「それはだめ。公序良俗に反することだから」
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加