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「………お父さんだけが悪いわけじゃないよ」
「それでも、叔父さんのあの鈍感さは糾弾に値する罪だよ。バアサンの嫁いびりも気が付かないし、今だってさ」
香子は叔父さんに甘いな。そういってグラスを一気に空ける。
少し離れたところでは、本日の主役たる新郎新婦が幸せそうな笑顔で入れ代わり立ち代わりのゲストと乾杯を繰り返している。その様子を遠目に見ながら、湿っぽくなった空気を入れ換えるように直兄が明るくぼやく。
「しかしあいつ、よく元カレの俺のこと呼んだよな。招待状もらってたまげたわ。なんで?って聞いたら呼びたいのは香子で俺はそのお付きだってさ。だからあんたも絶対来なさいよ!て脅されたよ」
彼らはわたしの事情と、不良少女の始まりの頃を知っている。というよりその時代に知り合った人たちだった。今振り返れば、明らかに不安定だったわたしが人生を踏み外さないよう、ずいぶん気にかけてくれた。直兄がつないでくれた人の縁だ。
わたしに必要なのは家でも学校でもない第三の場だと、直兄がそうしてくれたことを知っている。それが酒場だったというのはどうかとも思うけれど。
なお、彼らにはわたしの年齢もばれているので、このパーティはフリードリンクなのにわたしにはソフトドリンクしか渡されない。飲みかけのグラスに入っているのはジンジャーエールだ。
「俺、新しいのもらってくる。香子は?」
「わたしの分はレモンソーダで」
「了解」
直兄はひょいと席を立って奥のカウンターに向かい、すぐに両手にグラスを持って戻ってくる。
わたしの前に冷えたグラスを置きながら、神妙な顔つきをして突然の質問を投げた。
「……香子さ、最近男できた?」
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