9人が本棚に入れています
本棚に追加
⑥ 雨が降る。バスは……。
ポツッ、ポツッ、ポツッ。
屋根から音が。
それはやがて連続する一つの音になった。
「やあ、雨が降って来たよ! バスが来るよ!」
アレックスが掌に雨を受けながら歓声を上げている。
私は、雨に濡れないように頭だけ待合小屋から出して、道の先を見た。何か来ている。バスだ! バスが来てる!
信じられない。こんなことってあるのだろうか! 雨が降って雨宿りしたらバスが来るなんて……。
「ほら、僕の言ったとおりでしょ。バスはちゃんと来ましたよ」
正次君はとびっきりのドヤ顔だ。
バスが、停留所の前に止まった。
見たところ普通のワンマンバス。自動ドアが開くと客が1人下車して来た。
その客と目が合う。
「あ!」
心臓が止まるかと思った。降りて来た客は……私の父だ。
「陽子ちゃん。元気そうだな」
やはり、お父さん。5年前に病気で亡くなった私のお父さん……。
何で? どうなっているの? 確かにお葬式をして荼毘にふしたお父さん。
「どうした。陽子ちゃん。そうだよ死んだお父さんだよ」
「ホントなの? ホントにホント? 私の大好きだったお父さん……」
何が起こっているのか分からず、私は振り向いて正次君たちを見た。みんなほほえんでいる。
「陽子さん、お父さんに会えて良かったですね」
あのドヤ顔で正次君が、さも当然のごとく言った。
死んだ人に普通に会えたと言うことは、ひょっとして私もすでに死んでいるってこと? ホラー映画でよくある落ちだよね。
ドライブ中、車が故障したんじゃなくて、実は事故を起こして、私はすでに死んでいた……みたいな。で、ここにいる人たちは現世の人じゃないんだ。すでに、死後の世界の住人なんだ……。
「小日向先生、どうされましたか」
オルガンさんが私の肩を優しくさすってくれる。
「私、死んだの?」
「何でですか? 生きて、ここにいるじゃないですか。お亡くなりになったお父様に会われて心配になったのですね。大丈夫ですよ。小日向先生は生きています」
なんで冷静に、全く普通にそんなことが言えるのだろう。
「オルガンさん、正次君、アレックスあなたたちは何者!」
「高校2年生です」
と、オルガンさん
「小学4年生だよ」
正次君。
「わちきは、ダンス修行をする者でありんす」
アレックスも……みんな普通に答える。
「わしは、死んでるけどな」
ギャグのように言うお父さん。お父さんは人を笑わせるのが好きだったよね。
最初のコメントを投稿しよう!