雨を言い訳に

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雨は、降ってほしくないものだったのに。 心持ち一つで、『雨よ降れ』って。 雨を願うようになるんだな……って。 六月の梅雨真っ只中。 今着ている高校の制服が、高い湿度でじっとりと肌に張り付くような……まとわりつく蒸し暑さ。 一つに後ろでまとめている長めの黒髪も、湿気で程よく膨張気味。 目の前には空の曇天と、瑞々しい葉を広げたたくさんの木々。 そして、一面に広がるのミニチュアのように見える街並み。 ここは、緑豊かな通称『市民の森』。 人の手が入った森っぽく見える、程よく整備された運動公園。 テニスコートに大きなグラウンド、アスレチックのアクティビティに、子供向けの憩いの広場。 そんな広い公園の中にある東屋。 休憩できるような場所や、眺めの良い展望台的な場所に、いくつも造られている。 そんないくつもある東屋の中の一つ、あまり人の通らない、小高い位置にある東屋に私はいた。 降るのか降らないのかわからない曇天を、東屋内に設置されている長椅子に座って、ぼんやりと眺めて。 ……ここに来るようになって、早くも半年。 ここからの夕焼けが、とてもキレイなの。 受験勉強に疲れた去年の十二月。 勉強から逃げたくて、たまたまこの東屋にやって来て。 その日から、私はここから見える夕焼けに魅せられてる。 知ってる? 夕焼けって、毎日違う表情を見せてくれるの。 オレンジだったり、紫だったり。 沈んでいく太陽が、空っていう果てしない空間に神秘的なグラデーションを創り出して。 晴天のとき、雲がある時、気温の変化や湿度の違いで、本当にいろんな表情を見せてくれる。
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