2.空から来たひつじ

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2.空から来たひつじ

 レイは十歳になっても、学校帰りにはヨウのアパートに遊びに来ていた。もはや児童館扱いだが、お互いの家の距離も近いので両親も安心して預けられるのだとか。  相変わらず、レイは羊のワタと遊ぶのが日課だった。そしてヨウは、凝りもせずワタの毛でチクチクと羊毛フェルトを作っている。  その日は、レイのワタへの当たりがちょっと強かった。ふわふわの毛をちょっぴり強く引っ張ってみたり、寝ぼけたような顔をゴシゴシ強めに撫でたり。それでもワタはされるがままだった。 「レイちゃん、何かあったの?」 「別に」 「何かあったでしょ、それ」  苦笑するヨウと、ふくれっ面になるレイ。  彼女は不機嫌の理由を訥々と話しだした。  原因は彼女のパパだった。  ずっと前から、日曜日に映画館に行く予定を立てていたのに、急に仕事の付き合いでゴルフに行くことになってしまい、予定が延期になってしまったのだ。  家族よりも仕事を取った父親に対して、レイはずーっと怒りが収まらなかった。 「兄貴、意外と断れない性格だからなぁ」 「でも酷くない? こっちが先に約束してたのに」 「うーん。でもねレイちゃん、大人って、何というか、こう、そういうことをせざるを得ない時もあるっていうか……いろいろと複雑なんだよ」 「約束を破ってもいい理由があるっていうの? だったら最初から約束なんてしなきゃいいじゃん! ヨウ君もそういう大人なわけ!?」 「ひえ」  興奮したレイはヨウに詰め寄った。十歳ともなるとこんなにハッキリと物申すようになるのかと、ヨウはびっくりして目を白黒させる。  そのとき、ワタが動いた。普段はお地蔵さんのように微動だにしない羊は、ポコポコ歩いて部屋を横切る。  珍しいことなので、レイはつい注目してしまった。  ワタは、隣の部屋の扉をポンポンと前足で叩いた。そこは常に閉じられていて、レイは入ったことがない。  そんな部屋を示したワタは、何か言いたいことがあるのだろうか。 「なるほど……」  ヨウだけは何か分かったみたいで、うなずいた。 「レイちゃん、今から見るもの、誰にも言わないって約束できる?」 「は? 何のこと?」 「約束してくれたら、兄貴……パパと一緒に映画に行けるようにしてあげる。けどその代わり、パパを許してやってくれるかな?」 「何言ってるの? ヨウ君……」  返事を聞く前に、ヨウは扉を開いた。  果たしてそこには、レイの想像を超える光景が広がっていた。
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