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雨乞いをする男
快晴の空の下、茹だるような空気を泳ぐようにして草生した土手を越えると、陽炎揺らめく乾いた河原へと俺は降り立つ……。
その日も、午後の営業回りに出ていた途中、俺はいつものこの河原へとやって来ていた。
大きな一級河川の河原だが、周囲には遊歩道も運動場的なものもなく、小高い土手と生い茂る藪で住宅地とも仕切られているため、滅多に誰も近づかないような、なんとも静かな場所だ。
仕事やプライベートで嫌なことがあった時、俺はよくここへ来て、川の流れをぼーっとただただ眺めている……いわゆる〝癒し〟というか、現代社会のストレスから己の精神を守るための防衛手段である。
そのため、この何もなければ人気もない静かな場所というのが、俺にとっては大変好都合だった。
しかし、ここ最近はこうしていても、心地良いひとときとは真逆にむしろ不快指数が高まっていくばかりだ……。
大きな河原石に腰かけた俺はジャケットを脱ぎ捨てたが、下の白シャツにはじっとりと汗がにじんでいる。
静かなのはいいのだが、とにかくここは熱い……ギラギラと輝く太陽がゴロゴロと転がる河原の白い石を焼き上げ、おまけに風は凪いでいてまるで天然のサウナ状態だ。
異常気象というやつだろうか? 今年は梅雨だというのに日照りがずっと続いていた。
あんなに横幅のあった河の流れも今はちょろちょろと真ん中の一番低い部分を流れるだけであり、目の前には乾き切った石だらけの荒野が遠くまでずっと広がっている。
「……暑い……ただただ暑い……帰るか……」
座っているだけなのに、頬にはつー…と一筋の汗が流れ落ちる……癒されるどころかストレスが溜まるこの状況に、俺が重い腰を上げて土手の方へと向かおうとした時のことだった。
「──かけまくもかしこき天神、雷神、願わくば雨を降らせたまえ幸いたまえ〜…!」
そんな甲高い声が、乾ききった石だらけの河原に木霊した。
「……ん?」
振り返ると、もっと河原の真ん中に近い場所に一人の男が突っ立っていた。
釣り人なのか? ポケットのいっぱい付いたカーキのベストを着て、頭には麦わら帽子を被ったおっさんだ。
「…大粒の雨を降らせたまえ、我らを守りたまえ〜…!」
そのおっさんは両腕を広げて天を仰ぐと、祝詞のようなものを朗々と唱えている……ここからは少し離れているため、こちらの存在には気づいていないようだ。
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