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Plan
朝焼けの空は、すでに北側には黒々とした雲の塊が迫りつつあった。景色を楽しむ余裕はない。おれのアタマのなかは真っ白。いや、蒼ざめていた……といっていい。
なにしろ、初めてのことだ。
いま、はやりの、『こんなの初めて!』と、叫びたくなるものの、なにも浮かばない、なにも考えられない。
耳に届くのは、ただ羽虫たちの気儘な音だけ。
ざわざわ、ぶんぶん、ひたひた……。
ぶんぶんぶん、ひたひたひた……。
麓への小径を急ぎながら、何度か躓いて転びそうになった。
そのつど、我にかえって、あいつを殺したカントリーナイフを落としていないかを確認するのだ。兇器から面がわれることもある。屍体のそばに置くておくわけにはいかない。できるだけ遠くへ、あるいは、早く処分したいのだが、それはそれ、すでに犯行におよぶ前から、入念に計画を練ってきた。
おれが書いたプランニングシートのタイトルは、三つの願い。いわば、完全犯罪のためのシナリオだ。
一つ目の願い……は、あいつがおれの殺意に気づくことなく、自然の浸食で出来た巨石群が見事な谷間の早朝散策についてきてくれること。
二つ目の願い……は、犯行後、他人に目撃されることなく、あいつのアパートまで戻れること。
そして。
三つ目の願い……が、雨よ降れ。
天気予報では、昼頃から強い雨が降り、三日間ほどは続くらしかった。それを事前に調べておいたからこそ、あいつを散策に誘ったのだ。
よし、二つの願いは叶った。
あとは、雨が降るのを待つだけ……。
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