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Do
シャワーを浴びると、ひと仕事終えた疲れでぐったりと、あいつのベッドの上で寝転んだ。
アパートとはいえ、そんじょそこいらのワンルームマンションよりは家賃が高い。昭和レトロふうの瀟洒な造りで、有名な建築デザイナーのプロデュースらしい。
ベッド横のテーブルの上に、あいつのパスポート、運転免許証、通帳とカードが数枚、並べておいた。今日からおれは、あいつに成りすますのだ。
それにしても、よく似ている。
世の中には自分と瓜ふたつの人物が三人いると聴いたことがあったが、街中であいつの顔をみたとき、おれは腰を抜かさんばかりに驚いた。
もう一人の自分……がいたのだ。
背丈も体格もちょうど同じぐらい。
違うのは、髪型とファッション。借金まみれのおれは、喰うや食わずで徘徊していた。
ところが、あいつは清涼しい顔で、ブランド物のジャケットを着こなして歩いている。手首には見るからに高そうな腕時計。左手の中指にもキラキラ光るシルバーリング。
おれは一目で腹が立ってきた。
おれとそっくりなのは外見だけ。
リッチとプア、上流と底辺。この二極化の最たる見本のようなあいつとおれ。
このとき、入れ替わりを思い立ったのだ。
おれは髭を生やし、スポーツ刈にし、あえて頬にニキビをつくった。センスのない黒縁のメガネをかけ、あいつに近づいたのだ。
職業は……なんとかプランナーとかいっていた。よくはわからなかったけど、おれだって、プラン、ドゥ、シーぐらいは知っていた。計画を立て、実行し、検証する(See)。
だから、おれは、実行しただけ……
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