第1章 起

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「誰も応援してないわよ」 「そんなことないよ。俺は応援してるよ」 「優吾は知ってたの? 圭司が小説書いてるって」 そんなはずはない。僕が小説を書いているなんて話を人にするのは今日が初めてだ。生まれて初めて。そうだ、酔いが回って、つい話し始めて、恥ずかしくてたまらない。そうやって引け目に感じているのを言い当てられてしまったような気がする。 「いいねって、それしか言ってないじゃない。調子いいことだけ言って、優吾っていつもその場の雰囲気を気にしてるだけなんでしょ。別に私だって雰囲気悪くしたくて言ってるんじゃないんだからね?! 小説家とかさ、そういう人気の仕事を夢見て、ずっと芽が出なくて、才能がないのに気づかないでそこから抜け出せずに、ずっと時間を費し続ける人だっているからさ。 私はさ、ずっとダンスやってたからさ、『ダンスやってる』って言ったら『すごいね、応援してるよ』ってみんな言ってくれるのは知ってる。応援してないし、見に来てくれない人だってそう言うのよ。さっきの圭司の嬉しそうな顔見た? こいつ勘違いしちゃうよ?」 優吾は何も言い返さなかった。それでも応援しているとか、言ってくれるかと思った。 「なんか言えよ」 と、半笑いで由梨に言われたのは優吾ではなく僕だった。 「あんたのこと話してるんだよ? 話の流れもわかんないの? ここまで言われて何も言えないならさっさと辞めたほうがいいよ。小説家ならさ、カッコいいこと言って、言い返してみなよ」 こんなに剣幕なムードは初めてだった。大体なんでこんなに機嫌が悪いんだ。 今日僕が優吾の部屋に着いたとき、すでに詩織がいて、優吾は料理を準備していた。3人で話しているときはいつも通りだったのに、買い出しをして荷物を持った由梨がリビングに入ってきたとき、すでに機嫌が悪そうな感じはしていた。 僕は無言で由梨を見ることしかできなかった。
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