透明人間の憂鬱

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 透明人間というのはなかなか、生活に困るものだ。  小説や映画では、怪しい薬を飲んで、透明になるが、俺は体質というか、遺伝だ。  父も祖父も透明人間だった。男性のみが発症する遺伝子病の一種なのかもしれない。  祖父は炭坑で働いていた。炭で顔を真っ黒にしたり、怪我をしたと包帯を巻いたりして、誤魔化したらしい。酒呑みが多い職場だから、うっかり、透明なところを見られても、酔っ払っていたんだろうで済んだらしい。  父は一人で働けそうと、CGクリエーターとなった。そのくせ、映画の仕事なんかもしている。変なかぶり物をしていても、そういう人で済むから気が楽なんだそうだ。  母は父が映画の仕事をしている時に知り合ったメイクアップアーティストだ。  おかげで俺は小さい頃から、母のメイクで普通の人のように過ごしてきた。  ただ、嫌いなものは水だ。  手洗い、プール、雨。化粧が落ちそうで怖い。  母は特殊メイクもできるので、耐水性もバッチリなのだが、やはり、バレたらどうしようという気持ちは強かった。  中学生二年の頃、一番、馬鹿な頃、裸になって、街に出かけたことがある。  色んなところに勝手に入ってやる!  なんて、いきがったが、裸足は辛かった。おまけに途中から曇り空になった。雨が降ったら、体に当たる雫で輪郭がバレてしまう。  あれほど、焦ったことはない。  雨よ、降らないでくれ!  真剣に祈った。だから、今でも雨は嫌いだ。
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