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時計を見ると、もう九時が近い。課長に電話をしなくては。
「電話をしたいんですが、いいですか?」
「主治医の先生の許可が要ります。メールならここで構いません」
俺は急いで、課長にメールした。
『行けなくてすみません。お恥ずかしいのですが、昨夜自宅の庭で倒れてしまい、救急車で病院に運ばれたみたいです。今入院しております』
すぐに返信が来た。
『船橋君、大変だったな。すべて了解した。仕事は俺に任せて体を休めろ。完全に治ってから連絡しろ。くれぐれも無理するな』
返信を見て、ほっと安堵の息をついた。
午前中の院内回診で、「軽い肺炎ですね。あいにく、明日は日曜日なので、様子を見るために、二晩泊まってください。月曜日の朝に退院許可を判断しましょう」と言われた。
重病ではないとわかり、一気に気が楽になった。今日と明日は病院でゆっくり寝て、月曜日に退院し一日家で安静にして、火曜日に出社すれば、すべて元通りになるとひとりごちた。
味の薄い昼食を済ませたあと、つい、まどろんでいたようだ。
バタバタという足音が聞こえた。
「ヨウちゃん!」
大きな声とともに、嫁と二人の子どもが病室に入って来た。
「大丈夫? 死んじゃいや!」
嫁は俺の上半身をゆすった。俺は寝ぼけていて、反応が遅れた。
「ヨウちゃんに死なれたら、あたしどうしていいかわからない」
うっすらと目を開けた俺を見て、嫁は
「良かった! 意識が戻ったのね!」
と大騒ぎ。目に涙が宿っている。
まあ、久しぶりにかわいい嫁の姿が見られたので、もうしばらく重病の芝居を続けるとしようか。
(了)
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