鬼嫁の涙

6/7
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 くそっ、水が出ない! ホースが途中で捻じれているんだろう。蛇口まで戻り、ホースの捻じれを直しながら歩くと、ホースの先から水が勢いよく飛び出した! 慌ててホースの先を掴もうとして、シャツが水浸しになってしまった。ついてない……。  くそっ、蚊がやってきた。俺の血液型はO型で、おまけにビールを飲んだし、汗もかいているので、蚊の絶好の餌食だ。首も顔もかゆくてたまらない。  ようやくの思いで花に水をやりながら、心の中で独り言をつぶやいていた。ああ、間に合った。これで、小遣いの減額はなくなった。  だが、そのとき、新幹線の往復のチケット代、二万二千二百円が頭をよぎった。こんな金、嫁に請求できる訳がない。ただでさえ、小遣いが毎月足りないくらいなのに、どこから持って来よう。頭が痛い。  そのとき、頬に冷たいものを感じた。  雨だ! 雨が降って来た。 「遅いちゅうの!」  俺は天を仰いで、悪態をついた。  しばらくそのまま雨に打たれていたが、突然、怒りが込み上げてきた。  何で、今ごろ、雨が降るんだ!   何で、天気予報はこんなに外れるんだ!  何で、二万二千二百円を払わなければならないんだ!   なぜか、涙がどんどん出て来て止まらない。この怒りを、誰にぶつければいいんだ! 俺は体中から力が抜けて行き、がっくりと地面にひざを落とした。  覚えているのは、そこまでだ。  気がついたら、俺は病院にいた。  訳がわからない。検温に来た看護師に事の次第をたずねた。 「お隣のご主人が、今朝ゴミ出しに行ったとき、船橋さんがお庭で倒れているのを発見したそうです。それで、救急車でここに運ばれたのですよ。ご主人は先ほどお帰りになりました。船橋さんの奥様には、すでにお隣の奥様が電話でご連絡済みです」  呆然となった。俺は疲れとストレスで、雨が降る庭で気を失ったらしい。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!