ヒーローの約束

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 僕のおうちは東京のマンションだから、クーラーを入れていないと暑くてたまらない。だけどおじいちゃんのおうちは日本家屋っていって、窓を開けておけば気持ちのいい風が入ってくる。風と一緒にセミやカエルの声も聞こえてくる。  去年の夏、雨が降った後に咲お姉ちゃんとお姉ちゃんと縁側に並んで座って虹を見ていたら、網戸にカエルがくっついていた。お姉ちゃんはカエルを見てびっくりしていたけれど、咲お姉ちゃんは「カエルも虹を見に来たのかな」って笑っていた。  今日もあの日みたいに、天気がいい。庭では僕の身長より大きい向日葵が咲いている。 「咲ちゃん、また一緒に虹見ようねって約束したでしょ」  お姉ちゃんの言葉に、僕の体の中を雷が通ったような感じがする。  忘れていた。  去年、また一緒に虹を見ようねって三人で約束していた。指切りげんまんもしていたのに。  大切な約束を忘れるなんて、ヒーロー失格だ。  僕は唇をかむ。  いつもいろんな女の子とデートの約束をしているレッドだって、約束を忘れることはない。『売れっ子俳優みたいに、そっちの現場こっちの現場って笑顔で登場。それがヒーローさ。約束のダブルブッキングと疲れた顔を見せるようになったら、ヒーロー失格、引退時さ』  レッドが決め顔でウインクしていたのは、昨日の話だ。 「くっそぅ……」 「え? ユウ、トイレ?」 「くそー!」 「ユウ、ちょっと静かに――」  ママの足から離れ、咲お姉ちゃんのベッドをまわって縁側に飛び出す。虫が入ってこないようにと網戸にして会ったけど、網戸をパンっと開けて空に叫ぶ。 「降れー! 雨、降れー!」  虹は雨が上がった後じゃないと出ない。それに雨上がりに必ず出るわけじゃない。 「降れー! 雨よ、降れー!」  アニメで見た真っ黒い服を着たおばあちゃんが祈っていたのをマネして、両手を空に伸ばして大声を出す。
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