雨よ降れ

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 あーめ、あーめ、ふーれ、ふーれ、かーさんがあ。  よなっかむっかえーにくーるんだよ。  げげげ。  ここでいっつも混ざっちゃうんだよねえ。  こないだこの歌を歌ったらね、Cちゃんが「わたしのことみたい」って言ったのね。なにそれ? って思うじゃん? そうしたら、ちょっと言いにくそうにした後、教えてくれたんだけど。  Cちゃんが通学にいつも使っている横断歩道にね、雨の日になると必ず、向かいに女の人が立っているんだって。その人は差している傘の他にもう一本、子供用の黄色い傘を手に持っていて、現れるのは必ず学校からの帰りの時間なんだって。そのことに気付いたのは、雨が多くなった六月頭あたりで、最初は、いつもいるなあくらいにしか思っていなかったらしいのね。なんだけど、それからふと、Cちゃんは、もしかしたらお母さんなんじゃないかと思った。  Cちゃんのお母さんは、Cちゃんがまだ幼稚園児だったときに亡くなったそうなんだけど、それがどうも、ひどい雨の日に、自分を幼稚園に迎えに来る途中のことだったみたいなんだって、Cちゃんは何とも言えない表情で言ってた。だから、もしかして、未だに小さかった自分を迎えに来ているんじゃないかって、そうCちゃんは考えた。  Cちゃんは、どうにかしてあげたいと思った。自分がもう高校生になったこと、もう一人で帰れることを伝えてあげれば、お母さんは安心して成仏できるんじゃないかって。だから、次に雨の日になったら、お母さんにそう伝えようって決めたのね。  Cちゃんがてるてる坊主を逆さに吊るした翌日、さっそく雨が降った。その雨は一日中降り続いて、帰宅時間にもざあざあ降りだった。  普段よりも薄暗いその横断歩道の先に、やっぱりその女の人は立ってた。信号が青になると、Cちゃんはずんずん女の人に向かって歩いていって、目の前まで来ると意を決して「お母さん」と話しかけた。  あなたじゃない  女の人はそう言って、歩いていっちゃったんだって。   今思うと、どうしてあんなにも思い込んでたんだろうねって、Cちゃんは苦笑いしてた。それ以来、Cちゃんは通学ルートを変えたって言ってた。だって気まずいじゃんって。  ん? よく分かったね、そうだよ、この横断歩道が今の話の横断歩道だよ。  ねえ、君には何が見えてる?  わたしには地面に伸びる黒い影しか見えないんだよね。
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