1.切ない音

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「あ、はい…海外事業の清水さん、経理の加賀美くん、システムの牧野くん、営業の小森くんと白石さんです。あ、でも飲み会に白石さんはいなくて…」 白石さんの名前を出した瞬間、大橋さんの顔色が変わった。 「そうか…榎原は白石と同期か…」 呟くように言われたそれは、怒りが含まれている気がした。そして、大橋さんは何かを考え込んでいるようだった。 小森くんの言ったことが事実なら、白石さんが美織さんにしたことで、もしかしたら大橋さんも対応に追われているのかもしれない。 それとも、それとは別件で白石さんが大橋さんを困らせるようなことをしたとか…?大橋さんだって、企画部のエースである。白石さんが目を付けてもおかしくはないのだ。 「あの…大橋さん…?」 堪らず私が声を掛けると、 「あ…あぁ、すまない」 と、再び謝った。 いくつかの予想は立つけれど、私はなかなか確信が持てないでいた。聞きたいけれど、そもそも新人の私なんかが聞いてもいいものか…。 どうしようか迷っていると、大橋さんがフッと笑いながら言った。 「榎原、ものすごく何があったか知りたそうな顔をしているな」 嘘っ?!顔に出ていたの?! 何だかとても恥ずかしい。 私が恥ずかしがっていると、大橋さんは変わらずクスクス笑っていた。 「こんな時間じゃなかったらな…飯でも食いながら話してやれるんだけど、さすがに遅い時間に連れ回すわけにはいかないから」 ごめんな、と言いながら、大橋さんは言った。 「い、いえ!むしろお気遣い頂いてすみません…!って、大橋さん、残業していたなら、ご飯まだなんじゃ…」
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