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震えながら泣いている私を見た大橋さんは、今日のスケジュールは中止の方が良いと判断したらしい。
しかしその言葉を聞いた私は、首を横に振った。急遽決まったとは言え、大橋さんと出掛けるのを楽しみにしていたのだ。カフェだって、そこまで行くルートだって、一緒に楽しみたくて一生懸命考えたのだ。
それなのに、あんな人達の行いのせいで、全部ダメにされたくはなかった。
「…無理しなくていいんだぞ?仕事じゃないんだし、榎原が辛かったらまた今度でも…」
私は再び、首を横に振った。
気遣いは嬉しい。でもそれ以上に、一緒の時間を楽しみたかった。
「いや、です…」
絞り出すように私は口を開いた。
「え?」
「楽しみにしていたから、嫌です…」
驚く大橋さんに、私は自分の気持ちを言った。
「榎原…」
そんな私に大橋さんは小さく溜息をつくと、私の頭にポンポンと触れた。
「本当に大丈夫か?無理していないか?」
念を押すように、大橋さんが聞いてきた。私はそれに頷いた。
「…分かった。だけど、途中でも無理そうだったら、すぐに帰ろう。そのときはちゃんと家まで送るから安心してな?」
大橋さんは私の希望を叶えつつ、いざという時のことまで考えてくれていた。それがとても嬉しくて、思わず抱きついてしまいそうになるのを必死で堪えた。
「ありがとう、ございます…すみません…」
何とかお礼を伝えると、大橋さんは笑いながら「大丈夫だよ」と言った。そして、
「むしろ、俺もちょっと謝らないと…」
と、大橋さんは急に気まずそうな顔になった。
大橋さんが私に謝らなきゃいけないことなんてあったっけ?
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