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「いや…さっきさ、“奈々”って下の名前で呼んだから…」
「あっ…」
そう言えば、そうだった。
大橋さんが助けに来てくれた時、私のことをそう呼んでいた。
全然気にしていなかったけれど、そのことを思い返して今更ながらに嬉しさと恥ずかしさでいっぱいになった。
「勝手にごめんな。だけど、その方があいつらを追い返すには、そう呼んだほうが勘違いしてもらえるかもって咄嗟に思って…警察を呼んだっていうのもハッタリだし…」
「勘違い…ですか?」
大橋さんの言っている意味が分からなくて、そう返した。
「…あ、いや、その…彼氏がいるみたいに見せられたら、引き下がるかなって…」
その言葉に、私は顔がサッと熱くなるのを感じた。
振りでも恋人同士に見えたなら、ちょっと…いや、かなり嬉しい。もちろん、振りじゃない方が嬉しいけれど…。
「ご…ごめんな、俺みたいなのが振りでも彼氏とか嫌だよな…」
私が黙ったままだったので、大橋さんは私が嫌がっているものだと思ったらしい。
「そんなことないです!そんなこと、あるわけないです!」
私は慌てて全力で否定した。それを見た大橋さんは驚きながら私を見ていた。
「え、榎原…?」
「あ、いえ、その…大橋さんにはいつもお世話になっていますし、尊敬している先輩なので、嫌とかそういうのは無いと言うか…むしろ助けてくださったのに、そんな風に思ったりしません」
私がそう言うと、大橋さんはきょとんとした顔をした。
…もっと他に言い様があったのではないか。
何と言うか…いつもお世話になってる、とか、本当のことだけれど仕事っぽいし、堅苦しく聞こえたよね…。
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