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「奈々とこうして普通に話せてるのも嬉しいし、何より“帰って来る”って奈々の口から聞けたから」
…?どういうことだろう?
そんな風に思っていると、健さんは私を抱き締め直して説明した。
「奈々に会う前にさ…このまま気まずいままで、仲直りも出来ずに、もう東京じゃなくて地元が良いから仙台にそのまま異動するなんてなったらって、ずっと不安だったんだ…我ながら女々しいなとは思ったんだけど…」
私は健さんの考えていたことに驚いてしまった。
確かに気まずい間は、私自身、東京に戻っても元の関係に戻ることは出来そうにないかも、と思っていたし、仕事もやりにくくなってしまうし、それならいっそこのままこちらに…とも考えていた。
それと同じようなことを健さんも考えていて、しかも不安に思っていただなんて…。
「だけど、さっき“私が帰って来ても”って言ってただろ?だから、安心したし、嬉しかったんだ…」
健さんの想いを知り、私の瞳からは涙が溢れてしまった。
「奈々?!」
健さんは急に泣き出した私を見て驚き、オロオロとしていた。
「わた、し…ちゃんとかえる…。東京に、帰ります…早く、健さんのところ…にかえ、りたい…」
本当の本当は、仙台行きを言われた時、すぐに健さんに相談して、企画のことを一緒に喜んで欲しかったけれど、止めても欲しかった。
頑張っておいでとも言って欲しかったけれど、行くなとも言って欲しかった。
仙台に来て、こっちが地元のはずなのに、東京にいる期間よりもずっと長いはずなのに、寂しくて心細くてどうしようもなかった。
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