14.安堵と衝動ー健side―

1/26
前へ
/505ページ
次へ

14.安堵と衝動ー健side―

藤と殿塚と3人で飲んだ日から数日後、タイミング良く仙台への出張が決まった。 これが無かったら、どこかの週末に榎原に会いに行こうと考えていたのだが、突然行って何だと思われることがやはり不安だっただけに、口実が出来たことで少し気が楽になった。 出張を目前に控えたある日。 同行することになった晴美さんに、打ち合わせをするからと、とある会議室に呼び出されていた。 必要な書類と自分のノートパソコンを持って、指定された場所に行くと、晴美さんが何とも言えない表情でこちらを見ていた。 最初は出先での打ち合わせ内容、向こうでの来客など、改めて確認をするという、至って普通の事前打ち合わせだったのだが、一通りそれが終わり、解散するかと思いきや、晴美さんに呼び止められた。 「…で、あんたどうするの?」 どうするの?とは…? 俺は全くその意味が分からず、首を傾げた。 「奈々ちゃんのこと!向こうに行くんだから、ちゃんと時間を作って、話でもしたらどうなの?」 「えっ…?」 突然、榎原の名前を出されて、動揺してしまう。 いや…そもそも夏の終わり頃に榎原の話をして以来、晴美さんに榎原のことを話した記憶がない。藤達にはこの間したけれど…。 「えっ?じゃないわよ。私が気付いていないとでも思った?あんたの先輩を何年やってると思ってるのよ…」 晴美さんは呆れながらそう言った。 どうやら頼れる先輩は、俺の様子を見て色々察したらしかった。 「あからさまになったのは、奈々ちゃんが仙台に行ってからかしら?奈々ちゃんの席、チラチラ見てるんだもの。美織ちゃんどころか、久保くんも気付いていたわよ」
/505ページ

最初のコメントを投稿しよう!

590人が本棚に入れています
本棚に追加